神殺しのクロノスタシスⅣ
…。

…さっきは、ユイト達の手前、黙ってたけど。

もう二人共帰ったことだし。

思いっきり、声を大にして言わせてもらうな。

…。

「…んんん、なぁぁぁぁにをやってるんだあいつらはぁぁぁぁっ!!」

もう、渾身の叫びだった。

そして、シルナもまた。

「な、な、な、なんてことだ。ふ、二人共まさっ、まさか、魔法陣にとっ、とっ、とびっ、飛び込んじゃったの!?」

どもり倒していた。

「お、お、落ち着いてください学院長、羽久さんも」

天音が、おろおろと俺を宥めようとしてくれたが。

「落ち着いてられるかっ!」

「ひっ」

八つ当たりしてしまった。ごめん。

「あんの、あんの馬鹿共…!一体何やってんだ!」

「…」

俺が怒るのと同時に。

イレースもまた、無言で憤怒の炎を燃やしていた。それはもうメラメラと。

イレースの血管がぶっちぎれるのではないかと、天音はひたすらおろおろしていたが。

ナジュだけは、笑いが堪えきれない、といった顔で抱腹絶倒だった。

笑い事じゃねーんだよ馬鹿。状況分かってんのか?

「この馬鹿ナジュ…!笑ってる場合じゃねーんだぞ!?」

思わず、ナジュに食って掛からずにはいられなかった。

「いや、はい。それは分かってますけど。…ぶふっ」

ぶっ飛ばすぞ。

「いやぁ、度胸があると言うか、向こう見ずですよねぇ。これも若さですかね」

そういう青春は要らないんだよ。

何故あいつらは、大人しく学園生活を謳歌するという、年相応の青春を送れないのか?

暗殺者時代の習慣、抜けてないにも程がある。

「いつの間にあいつら、そんな情報を入手したんだ!?誰もあいつらには喋ってないだろ!?」

「喋ってないですが…。あの二人のことだから、何処かに潜んで聞いてたんでしょうね。壁に貼り付いたりして…」

「ヤモリかよ!」

そしてあいつらは、何でそこまでして首を突っ込もうとするんだよ!

俺達って、もしかして、そんな頼りないの?

子供達が揃いも揃って、「自分達で何とかしてあげなきゃ…」と思われるほど、弱いと思われてんの?

今度一回、ボコった方が良いか?完膚なきまでに。

…返り討ちに遭いそう。

「そ、それはともかく」

と、天音が何とか場をまとめようとしたが。

「ともかく何だよ!?」

俺、逆ギレ。

「ご、ごめんなさい…」

「あ、いや…。ごめん。天音が悪い訳じゃないんだった…」

思わず八つ当たりしちゃってた。本当ごめん。

悪いのは、どう考えてもあの二人だった。

「と、ともかく…こうなった以上…」

「…もう、慎重策なんて考えていられなくなったね」

シルナが、天音の言葉を続けて言った。

…本当だよ、畜生。

出来るだけ危なくない方法で…とか思ってたけど。

あいつらが見境なく、魔法陣に飛び込んでしまった以上。

そんな悠長なことはしていられなくなった。

令月とすぐりが、命懸けで魔封じの石を奪還しに行ったのだ。

大人である俺達が、どうして安全策なんて考えていられようか。

今すぐにでも、俺達も魔法陣に飛び込んで、魔封じの石を取り戻しに行かなくては。

…それに。

「先に消えた四人だって、今頃どうしてるか分からないんだ…。ここで手をこまねいて、あるか分からない安全策を模索するより…。いっそ、危険を承知で飛び込んで、一刻も早く魔封じの石を取り戻すべきだ」

「…そうだね」

でなくては、また次の被害者が出てしまうかもしれない。

そうなる前に、他の誰かが犠牲になる前に。

俺達が、行かなくては。
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