神殺しのクロノスタシスⅣ
「さて、それじゃ人選はどうします?」

と、ナジュが尋ねた。

人選、って…。

「乗り込むんでしょう?異次元世界。なら、まず僕が行くのは決定ですよね」

おい。

何でそうなる。

「何でって…。いざ何かあったとしても、僕は死にませんから」

「そういう問題ではないだろ」

相変わらず、お前と来たら。

死なないからって、無闇に自分の命を犠牲にするようなことはやめろって、もう何度も言ってるだろうが。

しかし。

「そういう問題でしょう、今回は」

ナジュの顔は、至って冷静だった。

「…お前…」

「行ったら死ぬかもしれない。いや、死んだら僕は嬉しいですけど。でも、先に何が待ち受けてるか分からない状況で、僕が行かないのは有り得ないでしょ」

そんなことは…。

…ない、とも言い切れないが。

「大体、誰が行ったって命の危険があるのは変わらないんです。だったら、命に保険がある僕が行かない手はない。少なくとも、天音さんやイレースさんを行かせて、僕が行かないのは有り得ない」

「…」

命の価値に、貴賤はない。

しかし、今は。

命を落とすかもしれない人物を、危険だと分かっている場所に送り込むよりは。

何かあったとしても、絶対に死なない保険がついているナジュを…行かせなきゃいけないっていうのか?

そんな残酷なことが…。

「何が残酷ですか。令月さん達が既に行っちゃってるんだから、もう誰が行っても残酷ですよ。なら、せめて保険付きの僕が行った方がマシです」

「…お前、もしかしなくても、ワンチャン死ねるとか思ってない?」

「めちゃくちゃ思ってますけど」

やっぱりそういうことかよ。

お前のその気持ちは分かってるから、そこに口を挟む気はないが…。

「…マジでお前が死んだら、悲しむ奴がいるんだってことを忘れるなよ」

「…分かってますって」

本当に分かってんだろうな。

「それにほら、学院の為にも、少なくともイレースさんは残るべきですよ。そうでしょう?」

と、ナジュはイレースに向かって言った。

イレースが、眉間に皺を寄せた。

「学院長は、言わずもがな行く気満々ですし。羽久さんも、そんな学院長についていく気満々ですし」

そうだな。

シルナはシルナで、「自分の責任」だと思い込んでるんだから。

説得しようとしても、テコでも動かんだろう。

で、そんなシルナが行くなら、俺も行く。

それは絶対譲らない。

「ね?これで二人はもう確定してるんですよ」

「ちょっと待って」

と、天音が言った。
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