神殺しのクロノスタシスⅣ
さっき目覚めたばかりだが、意味不明なことばかりだ。

いきなり後頭部殴られて、目を覚ましたと思ったら。

今度はクラスメイト(?)の昼食の為に、校内を走っている。

色々と、疑問はあるが。

一番の疑問は、何故俺が初対面の無礼なクラスメイトの為に、律儀にパシってあげているのか、という点である。

あんな無礼なクラスメイトの言うことなど、無視していれば良いのに。

何故か俺は、自分の意志に反して、彼らの言うことに従おうとしていた。

彼らの為に昼食を買ってこなければならない、という使命感…いや、強迫観念がある。

不思議で仕方ない。俺は彼らのお母さんか何か?

それに、不思議なことは他にもある。

俺は廊下に出ても、この学校が何処の学校なのかさっぱり分からないし、見覚えもないのに。

何故か、何処に何があるのか、手に取るように分かるのだ。

そこに階段があるから、その階段を降りて。

そのまま右に向かって歩いていたら、下駄箱と玄関口があるから。

そこで靴を履き替えて、外に出る。

たくさんある下駄箱の中から、自分の靴の場所をちゃんと分かっているのも、不思議で堪らなかった。

まだ真新しく見える、外靴に履き替えた俺は。

学校の玄関を出て、裏口に回った。

分かるのだ。何故かは分からないけど、裏口の場所も。

裏口から出て、クラスメイトが希望したコンビニのある場所への道のりも。

駆け足で、俺は見知らぬはずの道を、迷うことなく進んでいった。

頭の中は全く覚えてないのに、身体が覚えていて、まるで本能のように動いている。

パシリが本能って、何だか凄く嫌なんだけど…。

それでも、俺はクラスメイトが希望していたコンビニ…Mマートに辿り着いた。

学校から、走って五分足らずだった。

それなのに、俺は妙に焦っていた。

早く買って、早く帰らなければという焦燥感に駆られていた。

駆け足で入店したMマートも、勿論俺にとっては初めて見る場所なのだが。

何故か俺は、この店の商品陳列棚の位置を覚えていて。

真っ直ぐ菓子パンコーナーに向かった。

それで、俺は何を買えば良いのか?

考える必要はなかった。

鋭い直感でもあるのか、俺は迷わずに手を伸ばしていた。

三人いたうちの一人は、チョコデニッシュが好きだからこれを、あとクロワッサンも好きだから…。

もう一人は、カツを挟んだサンドイッチが好きで、あとホットドッグが好きで…。

それからもう一人は、パンよりおにぎりの方が好きだから、それにおにぎりの具は、海老マヨと明太子で…。

と、俺は彼らの昼食の好みが、手に取るように分かるのだ。

食べ物どころか、飲み物まで。

彼はコーラ、彼はお茶、彼はカフェオレと、次々に商品を手に取り、カゴに入れてレジに向かう。

あ、それと肉まんが欲しいって言ってたんだっけ。

「あの、肉まん一つください」

俺は、レジの店員にそう頼んだ。

何をやってるんだろう、本当に。

見知らぬ場所の見知らぬ人の為に、見知らぬ店で肉まんを買おうとしているなんて。

こんな不思議体験、有り得るか?

有り得ているから、こんな状況になってるんだけど。

しかし。

「肉まんは…今売り切れみたいですねー」

大学生のような身なりをした、若干チャラい男性店員は、ちょっと小馬鹿にしたような口調で言った。

え、売り切れ?

それを聞いた瞬間、俺は背筋がゾッとした。

別に、自分が食べる訳でもない肉まんが、売り切れていたからって…。

それだけで何で、俺はこんなにも動揺しているのか。

意味が分からない。
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