神殺しのクロノスタシスⅣ
ともかく。

駅長さんが拡声器で声をかけ、作業員達には、全員避難してもらった。

そして、今復旧作業をしているから、もうすぐ運転再開出来るという旨を、駅に詰め寄せた乗客達に伝えて欲しい、と頼んだ。

駅長さんはそれを聞いて、信じられない、といった顔をしたが。

シルナが強く頼んだので、渋々ながら承知してくれた。

きっと駅長さんは、「もうすぐ運転再開出来るなんて、そんなに軽々しく伝えて良いのか?」と思ったに違いない。

だが、大丈夫だ。

もうすぐどころか、あと10分後には運転再開出来るから。

俺達は、瓦礫まみれの線路内に降りた。

ホームから見ても、充分酷かったが。

実際線路に立ってみると、なおさら酷いもんだ。

「一体何処の馬鹿が、こんな馬鹿なことしたのやら…」

「乗客にとっても、駅員にとっても、良い迷惑だな」

全くだ。

「さて、それじゃ直すか」

と、俺は杖を振ろうとした。

しかし。

「あ、ごめんなさい羽久さん。ちょっと待ってください」

「ん?」

エリュティアが、杖を振ろうとした俺を止めた。

「どうかしたのか?」

「はい。実は僕ら…シュニィ隊長に言われて、ここに来ていて…」

…あ。

そういえば、忘れてたけど…。

「お前達は、何でここにいるんだ?」

誰もいなくなったところで、改めて。

無闇が、至極当然の問いをした。

それは…その…。

シルナの我儘と言うか…。

チラリとシルナを見ると、シルナの奴は、そっぽを向いて口笛を吹いていた。

しかも下手くそ。

しっ…らじらしい…。

潔く言えよ。「生徒にチョコあげたくて迎えに来た」って。

…仕方ない。

「…偶然だ」

我ながら白々しいと思いながら、俺はそう答えた。

「ぐ、偶然…?」

首を傾げるエリュティア。

王都セレーナで、イーニシュフェルト魔導学院にいるはずの俺達が。

今日偶然、いきなり南方都市シャネオンにいるなんて、そんな偶然は有り得ないが。

ここは、偶然ということにしてくれ。

「そう…偶然だ」

「そ、そうですか…。偶然ですか…」

さすがの適応力を見せ、無理矢理納得してくれたエリュティアである。

…本当、悪いんだけど。

「…ごめん、後でシュニィに頼んで、俺とシルナにも、後付で指令書書いてもらってくれないか」

「あっ…。はい、分かりました…」

何やら、事情を察してくれたらしい。

ごめん。本当ごめんな。

俺が悪い訳ではないんだよ。

シルナが我儘を言い出したのが、悪いのであって。
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