神殺しのクロノスタシスⅣ
「もう分かったので、あとは羽久さん、直してもらえますか?」

と、改めてエリュティアが言った。

よし来た。任せろ。

「犯行時刻は…いつ頃だったんだ?」

「本当に、日が昇る寸前ですね。午前三時頃…」

そんな時間からまた、ご苦労なことだな。

しかし、俺達聖魔騎士団の魔導師が来たからには。

そのご苦労な仕事を、一瞬出なかったことにしてやろう。

「じゃ、それより前の時間に『戻せば』良いんだな」

「はい、お願いします」

俺は、杖を持つ手に力を込め、魔力を注ぎ込んだ。

俺のお得意の、時魔法だ。

この、壊れた線路一帯を、壊れる前、午前三時より前の時間に「戻す」。

「eimt…eestorr」

俺が魔力を注ぎ込んだ、その瞬間。

みるみるうちに、線路はもとの姿を取り戻した。

時魔法によって、この壊れた一帯を、壊れる前の状態に「戻した」のだ。

「…さすがだな」

と、無闇は感嘆の声をあげた。

「はい…さすが羽久さんです」

エリュティアも同意。

「こんなことが出来る時魔法使いは、なかなかいないからね〜」

何故か我が事のように得意げなシルナ。

褒めてくれるところ有り難いが、俺なんてまだまだ素人みたいなもんだ。

「前の」俺に比べたらな。

とはいえ、俺の時魔法が、それなりに熟練していることは事実。

自分で言うのは、自画自賛みたいで嫌だが。

まず、時魔法という魔法そのものが、非常に高難度で、使える魔導師も限られる上。

これだけの範囲を、これだけの速さで、しかも何時間単位の時間を動かせる時魔導師は、まず存在しない。

何が言いたいかと言うと、それだけ時魔法は、難しく、そして使える者を選ぶ魔法だということだ。

運良く、俺はその才能に恵まれたが。

さっきも言った通り、これは多分、俺の持つ才能ではない。

「前の」俺の才能を、ちょっとばかし分けてもらった程度なのだ。

それでも。

こうして、人の役に立てるのだから…あながち、捨てたものではない。
< 23 / 795 >

この作品をシェア

pagetop