神殺しのクロノスタシスⅣ
…誰だ?

振り向くと、そこには俺と同じく高級スーツに見を包んだ青年が、腕を組んで立っていた。

「早くしなよ。うちの会長がお冠だよ」

会、長…?

って、誰のことだ?

俺は魔法陣に足を踏み入れて、異次元世界に来たことは覚えていた。

しかし、この世界で、自分が今どういう立場に置かれているのかは…。

そこまでは、全く記憶になかった。

だから何を言われても、何が何だかさっぱりだったのだ。

呆然としている俺に、青年は素っ気ない口調で言った。

「あぁ、何?どれを『出荷』するかで迷ってるの?」

…「出荷」?

言われて、俺は自分の前に檻があり、そして鍵束を片手に持っていることに気づいた。

そうだった。この鍵は何なんだ?

「確かに、今回の取引相手は、うちの上得意様だからね。下手な『商品』を選んだら、こっちが信用を失う」

…「商品」?

分からない言葉が、どんどん増えていく。

でも、出荷…商品…と来たら。

俺とこの青年は、何か、売り物を顧客に販売しようとしてるのか?

なら、俺達が売ろうとしている商品っていうのは…。

「それも、良品を六人…との依頼だ。全く。いくらうちが、ここいらじゃ一番の奴隷商会だからって…。奴隷の品質に、保証書つける訳にはいかないよね」

「っ…!」

思わず、声を出しそうになったのを、必死に堪えた。

こ、こいつ…今何て言った?

奴隷…?

「?何?僕、何か変なこと言った?」

「え?あ、いや…」

不審に思われてはいけないと、俺は努めて平静を装ったが。

内心、心臓はばくばくと音を立てていた。

そしてそのとき、俺はようやく気づいた。

目の前にある、この檻の中。

そこにいるのは、人間だった。

まだ年端も行かない…10歳前後の子供達。

その子供達が、恐怖に引き攣った顔でこちらを見上げていた。

彼らは一様に鉄の首輪を嵌められ、足首には枷がついていた。

手首には紐が巻き付けられていて、番号がふられた紙が、値札シールのようについている。

…まさに、出荷される家畜そのものだ。

この子達が…商品。奴隷なのか?

しかも…。

この青年の口ぶりから察するに。

俺は、この子供達を売る側の人間なのか?

奴隷商会って言ったよな?

俺も、その奴隷商会の一人なのか?

鍵束を持っているのも、無駄に高級そうなスーツを着ているのも、そう考えれば納得が行く。

でも…どうして、俺が。

いや、その理由は考える必要はない。

ここは、魔封じの石の欠片の持ち主が作った世界。

そいつは何らかの意図を持って、俺にこの役割を与えたのだ。

…奴隷商会に所属する商人の一人となって、人間の子供を売り飛ばせ、と。
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