神殺しのクロノスタシスⅣ
その姿は、間違いなくシルナだった。

俺は呆然として、その場に立ち尽くした。

俺や同僚の青年が着ているものより、ずっと高級そうな衣装に見を包んで。

そこに立っているのは、間違いなくシルナだった。

何でシルナがここに。

俺達は、別々の異次元世界に飛ばされたはずじゃ、と。

思った瞬間、

「…奴隷は?連れてきた?」

こちらを振り向いたシルナの、その目。その声。

氷のように冷たい目と声。

それは、俺の知るシルナのものではなかった。

「えぇ。きっちり六人」

「遅かったね」

「済みません。今日は、彼がどうもぼんやりしているようで」

呆然として立ち尽くしている俺の代わりに、同僚が返事をしていた。

何せ俺の頭は、目の前の現実を受け入れるのに必死だった。

返事をするどころじゃなかった。

…シルナじゃない。

見た目は完全にシルナなのに、その中身は全くの別物だ。

シルナは俺を前にして、こんな風に冷たい目をすることはない。冷たい声をかけることはない。

奴隷なんて言葉を…平気で使えるような人間じゃない。

これは、全くの別人なんだ。

そう納得したとき、同僚がシルナもどきに聞いた。

「会長。『引き抜き』はどうします?」

会長?

このシルナもどきが、さっき言ってた会長なのか?

つまり…俺や、この同僚が所属する、奴隷商会の会長だって言うのか。

このシルナもどきが?

それに、「引き抜き」っていうのは何だ…。

「そうだね…」

会長と呼ばれたシルナもどきは、俺が連れてきた六人の子供達を、品定めするかのような目で見た。

この場合、商品を眺めているのだから、正しく品定めだ。

一人ずつ、商品の品質をチェックするように、奴隷の首輪を掴んでじろじろと見つめる。

子供達の大半は、恐怖に引き攣った顔で、されるがままになっていた。

しかし。

度胸のある…と言うか。

憎しみのあまり、やけっぱちになったのだろう。

「…ぺっ!」

男の子が一人、シルナもどきに向かって、思いっきり唾を吐いた。

あ、ヤバい、と思う暇もなかった。

シルナもどきは、無言で懐から拳銃を取り出し。

拳銃の銃床で、男の子の顔面を思いっきり殴りつけた。

全く情け容赦のない一撃だった。

「ぎゃっ!!」

男の子は、数メートルも吹き飛ばされ、床に倒れて痛みに呻いていた。

口から何本もの歯が零れ落ちて、血を吐いていた。

なんて…酷いことを。

思わずシルナに食って掛かりそうになったのを、必死に自制した。

この男は、俺が知っているシルナ・エインリーではない。

しかもこの世界では、このシルナもどきは上司なのだ。

奴隷商会の会長なのだ。

逆らって良い相手ではない。

俺は、ぐっと拳を握り締めて耐えた。

「『それ』は不要品だ。主人に逆らう奴隷は要らない。処分して」

シルナもどきは、冷徹な声で言った。
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