神殺しのクロノスタシスⅣ
子供を「それ」呼ばわりするなんて。

それに…処分って何なんだよ…。

俺が混乱している間、二人は平然と話を続けていた。

「畏まりました。取り替えてきます」

「あぁ、それからもう一人。これは使えそうだから、檻に戻しておいて」

シルナもどきは、一人の女の子を指差した。

使えるって…何に…。

「商会の要員に?それとも…」

「いや、○○地区にある風俗店で使う。肌艶も良いし、売れそうだからね」

「分かりました。では明日にでも、店に送る用意をしておきます」

…!

使えるっていうのは、風俗店に沈めるのに使える、という意味なのか。

こんな年端も行かない少女を…それも、本人の意志も関係なく…。

自分が辿る運命を知らされた少女は、顔を引き攣らせて硬直していた。

当たり前だ。

しかし。

「では、この二人は今回は売らないということで…。不足分を連れてきます」

「うん」

同僚は、女の子の腕を掴み、再び檻のある部屋に戻っていった。

女の子に抗う術はなく、されるがままに連れて行かれた。

殴られた男の子は、床で呻いているだけだった。

…。

同僚が退室したので、俺はシルナもどきと二人きりになったが。

シルナもどきは何も言わず、こちらを見ようともしなかった。

俺がここにいることも、気づいていないかのように。

…やっぱりシルナではないのだ。

そうか。そういうことか。

これが、俺への試練なのだ。目の前にシルナがいるのに。

確かに、シルナの顔をした人物がいるのに。

でもそれは、シルナじゃない。

同じなのは姿形だけで、中身は全くの別物だ。

およそ、シルナが言わないだろうこと、シルナがしないであろうことをする、シルナの偽物。

俺に向かって笑顔を向けることはおろか、言葉をかけることもない。

そうだな。認めよう。

これは俺にとって、とても辛い試練だ。

シルナが目の前にいるのに、このシルナは俺を知らない。

シルナなのに、シルナじゃない。

本物のシルナだったら、絶対に有り得ない言動。

このあまりの落差に、俺は本物のシルナを穢されているような気がした。

「…何か?」

シルナもどきが、俺の視線に気づいたらしく、眉をひそめてこちらを見た。

俺はシルナもどきにとって、同じ奴隷商会に所属する部下のはずなのに、その目は酷く冷たかった。

家畜を見る目と同じだった。

しかし。

「…いえ」

俺はそれだけ言って、視線を逸らした。

他に、何が出来ただろう。

この世界において、シルナもどきと俺は、ただ上司と部下である以外に何の関係もないのだ。

自分にとって、役に立ちさえすればそれで良い。それだけの存在。

胸が締め付けられるような思いだった。

それでも、これがこの世界の「しきたり」である以上。

魔法も使えない俺には、どうすることも出来なかった。
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