神殺しのクロノスタシスⅣ
前述の通り、魔導師とは、人智を超えた力を持つ者。

そんな存在を、危険視する人間がいるのは当たり前だ。

だから魔導師排斥運動は、何処の国でも、必ずと言って良いほど存在する。

だが、その魔導師排斥運動の規模は、国によってまちまちだ。

ナジュや天音の言うように、魔導師の立場の方が低く。

怪しげな術を使う危険人物だとして、意図的に魔導師を弾圧する国もある。

魔法の概念が浸透していない国では、魔導適性を持っているというだけで、「異常者」のレッテルを貼られることさえある。

その点、ルーデュニア聖王国は、その真逆の国だ。

今日も、見ただろう?あの駅長さん達の対応を。

聖魔騎士団から、魔導師が派遣されてきたというだけで。

わざわざ駅長が出てきて、深々と頭を下げ。

魔導師に「様」までつけて呼び、俺達魔導師の魔法を、有り難いものとして尊敬の眼差しで見てくれた。

国によっては、良かれと思って魔法を使ったら、「余計なことをするな、呪い師風情が!」と石を投げられてもおかしくはないのだ。

そんな国には、イーニシュフェルトのような魔導師養成校もないし。

当然、聖魔騎士団魔導部隊のような、魔導師による国軍も存在しない。

そういう国では、魔導師は「異端者」だからだ。

ならば何故、このルーデュニア聖王国が、こんなにも魔導師に優しい国になっているのか。

その理由はまず、この国の女王である、フユリ・スイレン女王陛下が、魔導師に寛容な考えを持つ人物であるから。

彼女は魔導師を危険な人物ではなく、むしろ人智を超えた力をもって、国に貢献してくれる人物だと定義している。

だからこそ、聖魔騎士団に魔導部隊を作ることを許可し、魔導師養成校の創設にも積極的に着手する。

勿論、魔導師が危険な存在である可能性も、分かっていない訳ではない。

魔導師の危険性を知っていながら、それでいてなお、魔導師に正しい倫理観を求め、その力を人の為、国の為に使うよう期待している。

だから、そんな寛容な雰囲気の中で育つルーデュニアの魔導師達は、自然とその期待に応えようと、正しい倫理観を持った魔導師が増える。

魔導師達は人の為に魔法を使い、それによって助けられた人々は、魔導師に敬意を評し、自然と魔導師に寛容になる。

そんな空気を、そんな倫理観を、この国に植え付けたのだ。

フユリ・スイレン女王陛下と…。

そして、ここにいるシルナ・エインリーが。

表沙汰には知られていないし、ルーデュニア聖王国建国の歴史を紐解いても、シルナの名前は出てこない。

しかしその実、この国の建設には、シルナが深く関わっている。

あの頃は「前の」俺だったから、俺はよく知らないのだが…。

シルナは、自分と「前の」俺が、居心地良く…いや、都合良くルーデュニアに住めるよう。

裏から手を回し、現在のルーデュニア聖王国が出来上がっている。

シルナも、俺の心を読んでいるはずのナジュも、事情を察していながら、何も言わないが。

ルーデュニア聖王国は意図的に、魔導師に優しい国になるよう、作られているのだ。

だから、これまで魔導師排斥論者は、一定数存在してはいるものの、その存在が表に出てくることは、ほとんどなかった。

あったとしても、結局丸く収まっている。

この国は、「魔導師なんて危険だ。淘汰すべきだ」なんて、人前で言えば。

「この人は何を言ってるんだ?」と、眉をひそめられる国なのだ。

むしろ、魔導師排斥論者の方が、異端視されるほど。

だからこれまで、魔導師の立場が揺るがされるようなことはなかったし。

魔導師排斥運動が、活発化することもほぼなかった。

それなのに、今回はまた…一体どうして、こんなことになったのか。

俺にも、見当がつかない。
< 30 / 795 >

この作品をシェア

pagetop