神殺しのクロノスタシスⅣ
…一通り、シルナの体験談を聞いた俺は。

…まぁとりあえず、感想を言うとしようか。

「…くそったれな世界だな、おい」

「…本当にね…」

戻ってきてからというもの、シルナに元気がなかった理由が分かったよ。

あの異次元世界というものは、俺達にとって一番見たくない光景を見せ、傷を抉る世界だったらしいが。

シルナにとっては、まさにトラウマ世界だったようだ。

仲間の皆が大挙して押しかけて、舞台の上から悪口大会とは。

誰が考えたんだ、そんな悪趣味な世界。

しかも、異次元世界と言う割には随分狭い世界だったようだな。

それでいて、シルナの心を抉るには充分過ぎる世界だ。

「先に言っとくがな、シルナ」

「う、うん?」

「お前が見たのは、偽物の世界だからな。お前の悪口大会に参加したのは、全員偽物だ。本気にするなよ」

シルナのことだから。

「あれって口に出さないだけで、皆の本音だよね。皆本当はそう思ってるんだよね…」とか。

うじうじとそんなこと考えて、勝手に落ち込んでるんだろうが。

それは大きな間違いだ。

「あんな石ころが作った、デタラメな世界なんかに惑わされんなよ。本気にしたら思う壺だぞ」

「うん…。分かってる…」

おい。語意に自信がなくなってるぞ。

惑わされてんじゃないか。

まぁ、シルナの痛いところを突くには、そこが一番効果的だからな。

思いっきり、痛いところを突きまくったんだろうが。

全く余計なことしやがって。

「お前、肝が据わってる振りして、意外とメンタルぺらっぺらだもんな」

「…ごめんね、ぺらぺらで…」

「何謝ってんだよ。デタラメ言われて、勝手に傷ついてんじゃねぇよ」

偽物に罵倒されて傷ついてたんじゃ、アホくさいぞ。

傷つくなら、本物に言われたときに傷つけよ。

本物はそんなこと言わんけどな。

「良いか、気にするな…って言っても、お前は気にするんだろうが」

「…うん…」

認めるのかよ。

やっぱり重症だな。

「お前が見たのは、悪い夢だ。悪夢だ。全部現実じゃないんだよ」

俺が見たのもそうだ。

あのシルナもどきは、単なるもどきでしかない。

「たまたま今日は昼寝したとき、凄く嫌な夢を見たんだと思え。そういうときお前は、いつもどうしてる?」

「…羽久に慰めてもらう…。あと、チョコレート食べて元気出す…」

そうだろう。

これは深刻なチョコ不足だな。

「よし、いくらでも慰めてやる。それから、今日はいくらでもチョコを食べて良いから、元気を出せ」

「いくらでも…?」

「あぁ、いくらでもだ。何なら、また『ヘンゼルとグレーテル』から、珍しい菓子を取り寄せても良いぞ」

俺が払ってやるよ。あの莫大な請求。

「大盤振る舞いだね…」

「そうだ。だから元気出せ」

それでシルナが元気を取り戻すなら、いくらでも食べれば良いさ。

イレースには、白い目で見られるかもしれないけどな。

「ありがとね、羽久…。お菓子がって言うか…羽久のその気持ちが嬉しくて、ちょっと元気出たかも」

当たり前だろ。

「何せ、俺は本物の羽久だからな」
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