神殺しのクロノスタシスⅣ
僕には、母親の記憶はほとんどない。

覚えているのは、僕を人買いに売り飛ばした母親の姿。それだけだ。

僕にとって母親というのは、ただそれだけの存在だった。

あのまま実家にいても、僕がまともに育っていたとは思えないし、何なら捨てられて乞食になっていた可能性もあるので。

ある意味では、あの時点で売られて良かったのだろうと思う。

…で、それは良いとして。

この人、僕の母親なのか?

僕は、まじまじと母親(仮)の顔を見上げた。

…。

本物の母親の顔なんて、よく覚えていないけど。

でも、こんな顔ではなかった気がする…。

じゃあ、やっぱりこの人は、僕の母親の役割を与えられただけの偽物?

だってここって、何でもありの異次元世界、なんでしょ?

…そう。

僕は知る由もないことだが、僕の場合、先発した四人や、不死身先生とは違って。

異次元世界にやって来た経緯を、きちんと記憶してこの場所にいた。

僕と『八千歳』は、魔法陣に飛び込んで、異次元世界をぶっ潰し。

魔封じの石とやらを回収する為に、ここにやって来たのだ。

そのやり方は分からないけど。

でも多分、何とかなるだろう。

出来れば、『八千歳』に遅れたくはないなぁ。競争してるし。

『八千歳』はいつでも仕事が早いから、もう帰ってるかも。

帰ってから、「『八千代』ってば遅いんだから」って、溜め息つかれたくない。

出来るだけ、早めに帰るとしよう。

…だから。

「ねぇ」

僕は、母親(仮)に声をかけた。

「?どうしたの、令?」

令じゃないけど。僕。

まぁ、呼び名は大して問題ではない。

それよりも。

「この世界って、どうやったら出られるの?魔封じの石を持ってるのは誰?」

分からないことは、素直に聞いてみれば良い。

だから僕は、この異次元世界の住人に、直接尋ねてみた。
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