神殺しのクロノスタシスⅣ
この近くで起きた、連続放火事件の一つだった。
ニュースで聞いてはいたけれど、それが現実のものになるとは思っていなかった。
俺は真っ赤に燃える家を見て、身動きが取れないからではなく、自分の意志で呆然と立ち尽くしていた。
何をしたら良いのか、分からなかった。
足が動かなかった。
その後、すぐに消防隊が駆けつけた。
多分、近所の人が呼んでくれたんだと思う。
しかし、火は激しく燃え、完全に鎮火するまでにかなりの時間がかかった。
そして、全てが終わったとき。
放心していた俺は、家の中で焼け死んだ三人の…遺体袋を見せられた。
証人として、「中身」を確認して欲しいと言われた。
遺体袋を開けるなり、何とも言えない凄まじい匂いがして、吐き気を催した。
そして、真っ黒焦げになった遺体袋の「中身」は…もとの人相が分からないほどに歪んでいて。
それでも、「それ」が誰だか分かるのだ。
これは叔父…こっちは叔母…これが従兄妹…。
それを見て初めて、俺は自分の身に何が起きたのか理解した。
俺はあまりの唐突な事態の急変に、びっくりして声も出なかったが。
この身体の持ち主は、そのまま、嗚咽とも慟哭とも分からぬ、奇妙な声をあげてその場に崩れ落ちた。
しかし、現実は非情だ。
泣こうが喚こうが、死体は蘇らない。
起きてしまった事実が、変わることはない…。
「へぇ〜。あの家、こんなに保険かけてたんだ。ラッキーじゃん」
この痛ましい事件に、笑っているのは実母だけだった。
この母親は、死んだ弟夫婦を悼むこともなく、綻んだ顔で通帳を見つめていた。
住む場所をなくした俺は、嫌でも、この母親のいる家に戻ることになった。
その数日後、逃亡を続けていた連続放火犯がようやく捕まった。
これまでずっと逃げ続けていた癖に、捕まったとき犯人は、「早く捕まりたかった。死刑になりたかった。放火殺人をすれば死刑にしてもらえると思った」と語った。
それなのに犯人は結局、法廷に出る前に、留置所で自殺した。
そして、俺が…いや。
この身体の持ち主が、その後どうなったか。
実家に戻された彼は、そのまま高校に通わせてもらえた。
しかし、いじめはなくならなかった。
それどころか、火事の一件のせいで、「疫病神」だとか、「お前だけ生き残って卑怯者」だとか、散々なじられて馬鹿にされた。
いじめは、ますますエスカレートしていくばかりで。
誰も庇ってくれる人もいなかった。
おまけに実母は、受け取った叔父夫婦の保険金を、たった一年足らずで消し飛ばしてしまった。
金欲しさに、実母は息子に学校をやめさせ、働いて家に金を入れることを強要した。
それどころか、息子を連帯保証人にして、あちこちで借金を繰り返した。
もう、何もかも…何もかもが、めちゃくちゃだった。
「…酷い人生だろ?」
「…」
振り向くと、そこには見知らぬ青年が立っていた。
ニュースで聞いてはいたけれど、それが現実のものになるとは思っていなかった。
俺は真っ赤に燃える家を見て、身動きが取れないからではなく、自分の意志で呆然と立ち尽くしていた。
何をしたら良いのか、分からなかった。
足が動かなかった。
その後、すぐに消防隊が駆けつけた。
多分、近所の人が呼んでくれたんだと思う。
しかし、火は激しく燃え、完全に鎮火するまでにかなりの時間がかかった。
そして、全てが終わったとき。
放心していた俺は、家の中で焼け死んだ三人の…遺体袋を見せられた。
証人として、「中身」を確認して欲しいと言われた。
遺体袋を開けるなり、何とも言えない凄まじい匂いがして、吐き気を催した。
そして、真っ黒焦げになった遺体袋の「中身」は…もとの人相が分からないほどに歪んでいて。
それでも、「それ」が誰だか分かるのだ。
これは叔父…こっちは叔母…これが従兄妹…。
それを見て初めて、俺は自分の身に何が起きたのか理解した。
俺はあまりの唐突な事態の急変に、びっくりして声も出なかったが。
この身体の持ち主は、そのまま、嗚咽とも慟哭とも分からぬ、奇妙な声をあげてその場に崩れ落ちた。
しかし、現実は非情だ。
泣こうが喚こうが、死体は蘇らない。
起きてしまった事実が、変わることはない…。
「へぇ〜。あの家、こんなに保険かけてたんだ。ラッキーじゃん」
この痛ましい事件に、笑っているのは実母だけだった。
この母親は、死んだ弟夫婦を悼むこともなく、綻んだ顔で通帳を見つめていた。
住む場所をなくした俺は、嫌でも、この母親のいる家に戻ることになった。
その数日後、逃亡を続けていた連続放火犯がようやく捕まった。
これまでずっと逃げ続けていた癖に、捕まったとき犯人は、「早く捕まりたかった。死刑になりたかった。放火殺人をすれば死刑にしてもらえると思った」と語った。
それなのに犯人は結局、法廷に出る前に、留置所で自殺した。
そして、俺が…いや。
この身体の持ち主が、その後どうなったか。
実家に戻された彼は、そのまま高校に通わせてもらえた。
しかし、いじめはなくならなかった。
それどころか、火事の一件のせいで、「疫病神」だとか、「お前だけ生き残って卑怯者」だとか、散々なじられて馬鹿にされた。
いじめは、ますますエスカレートしていくばかりで。
誰も庇ってくれる人もいなかった。
おまけに実母は、受け取った叔父夫婦の保険金を、たった一年足らずで消し飛ばしてしまった。
金欲しさに、実母は息子に学校をやめさせ、働いて家に金を入れることを強要した。
それどころか、息子を連帯保証人にして、あちこちで借金を繰り返した。
もう、何もかも…何もかもが、めちゃくちゃだった。
「…酷い人生だろ?」
「…」
振り向くと、そこには見知らぬ青年が立っていた。