神殺しのクロノスタシスⅣ
それでも、退学する生徒は、いない訳ではない。

前述したレティシアは、特殊過ぎるから置いておくとして。

生徒の気持ちだけでは、どうにも出来ない理由で退学する生徒もいる。

在学中に、親が亡くなって学費が払えなくなった、とか?

残念。そんなことがあれば、シルナは該当生徒から、一銭たりとも学費を徴収したりしないだろう。

そもそもイーニシュフェルト魔導学院の学費は、他の魔導師養成校より安いし。

受験時の学費免除枠や、奨学金枠も多い。

奨学金だって、当然のように無利子で、しかも返済期限は、あってないようなもの。

挙げ句、卒業した生徒が奨学金を返しに来ても。

「奨学金?貸してたっけ?良いよ良いよ返さなくても。それより、たまには遊びに来てよ〜。今暇?ケーキ食べない?」とか言ってる。

これも、イレースにはよく苦情を言われるのだが。

シルナが反省する様子は、一向にない。

お陰で学院は、大抵いつも自転車操業だ。

まさか天下のイーニシュフェルト魔導学院が、家計火の車だとは、誰も思ってないだろうなぁ。

で、話を戻すとして。

精神的な問題でも、金銭的な問題でも、イーニシュフェルト魔導学院に入学した生徒が退学することは、まず有り得ない。

しかし、身体的な問題だけは、どうすることも出来ない。

「その子…何か…病気にでもなったのか?」

俺は、シルナにそう聞いた。

それ以外に、思いつく理由がない。

不幸にも、在学中に重篤な怪我や病気に見舞われた場合。

そのときは、さすがに学院側としても、出来ることがない。

その病気や怪我が軽くて、数年で戻ってこられる可能性があるのなら、辛抱強く待つが。

それこそ、学院のことになんて構っていられない、もう命に関わる病気や怪我だった場合は。

もう、どうすることも出来ない。待っていても、その生徒が学院に戻ってくることはない。

そういうときは、泣く泣く退学届を送ることになる。

滅多にあったことではないが、学院の歴史の中で、何度かそんなケースがあった。

そんなときのシルナは、それはもう見ていられないほど泣き、嘆き、めそめそと何ヶ月も落ち込んでいたものだ。

そして今、また退学届を郵送するように要請が来た。

それはつまり、エヴェリナという生徒の身に、何か不幸が起きたということではないのか?

…しかし。

「ううん…。病気じゃない」

と、シルナは首を振った。

「じゃあ、怪我か?」

「ううん…。本人の意志じゃなくて…多分、家族が退学させたがってるみたい…」

成程。

要するに、エリュティアパターンだな。
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