神殺しのクロノスタシスⅣ
「その…差し出がましいようですが…拷問を受けているお二人は…何か、悪いことでもしたんでしょうか?」

私はナジュさんにそう尋ねた。

私も、二人の子供を持つ身。

子供が拷問を…拷問と呼ぶには少々滑稽ではあるものの…受けている様を見せられるのは、あまり愉快ではない。

出来ることなら、第三者である私が仲裁に入り。

何とか、拷問官の怒りを鎮め、釈放してあげて欲しいものです。

しかし。

「無理なんですよ釈放は…」

「え?」

「彼らはこの度、非常に重い過ちを犯しましてね」

「な、何をされたんですか…?」

元『アメノミコト』暗殺者の犯した、重い過ち…。

…何でしょう?学院長先生のお部屋に、勝手に忍び込んだとか…?

「それは日常茶飯事です」

「えっ」

私の心をすかさず読んだナジュさんが、そう言った。

し、忍び込むのが日常茶飯事とは…。さ、さすが…。

「なんと彼らはこの度、例の魔法陣に勝手に飛び込みましてね」

「…」

「まぁ無事に帰ってはきたんですが、無断で立ち入り禁止区域に忍び込むわ、危険だって分かってる魔法陣にも飛び込むわ、あとは普段から校内を窓から窓への移動を繰り返し、目撃した生徒達の腰を抜かすわ、学院長の秘蔵のチョコレートに自作の毒薬を仕込んで悪戯…するのは僕の入れ知恵ですが、とにかく様々な悪事が、溜まりに溜まってるんですよ」

「…」

「そして今回の件で、羽久さんとイレースさんの堪忍袋の緒が、ブチッと切れた訳ですね。まぁ羽久さんはともかく、イレースさんの堪忍袋の緒は細過ぎるので、よく切れますけどね〜」

と、言った瞬間。

元ラミッドフルスの鬼教官ことイレースさんが、ナジュさんに鋭い視線を向けた。

「…あなたも宙吊りになりたいんですか?」

「あ、いえ僕は遠慮しておきます」

発言には気をつけないと、危うく三人目の受刑者になりかねないところだった。

「まぁでも、今日は優しめな拷問ですよ」

優しめ!?

「こ、これがですか…?」

充分…過酷だと思いますが。

「僕なんて、口を縫われたことありますからね。しかも赤い糸で。酷い拷問でしたよあれは」

「…」

「ね?鬼教官でしょ?」

…申し訳ないですけど、私。

イレースさんが来る前にイーニシュフェルト魔導学院を卒業しておいて、良かったです。
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