神殺しのクロノスタシスⅣ
と、思ったが。

「うちの娘は魔導師にはさせませんから。ましてや、ペテン師のシルナ・エインリーのもとに返すなんて、とんでもないわ!」

どうやら、この発言を見るに。

イーニシュフェルト魔導学院に戻したくない…と言うよりは。

シルナに会わせたくない、魔導師にさせたくない、という意志が強いようだ。

「ぺ、ペテン師って…。私は何も…」

「嘘言いなさい!あんたが、うちの娘を騙したのよ。素直な子だったのに、いきなり魔導師になりたい、イーニシュフェルト魔導学院に行きたいだなんて言い始めて…」

「…いや、あの、それは」

「黙りなさい!もう騙されるもんですか。あんたの言うことは皆嘘よ。詐欺師の言葉だわ!誰が耳を貸すもんですか!」

エヴェリナの母親は、シルナに唾を飛ばしながら激昂。

黙れと言われては、シルナは何も言い返せない。

何だか奇妙な言いがかりをつけられているようだが、弁解の余地も与えられないのでは…。

すると。

「お、お前…ちょっと落ち着きなさい」

エヴェリナの母親の後ろから。

おろおろと狼狽えながら、それでも何とかエヴェリナの母親を宥めようとする、中年男性がいた。

あれは…エヴェリナの父親か?

「そんな言い方は、あんまりだろう。王都から遠路遥々来てもらってるんだ。せめて家にお上げして…」

おっ、良いぞ。

頑張ってくれ、エヴェリナ父。

良かった。父親の方は、少しは冷静…。

かと、思いきや。

エヴェリナの母親は、そんな夫の態度が気に入らなかったらしく。

こんどはエヴェリナの父親の方を向いて、きっと睨みつけた。

その視線に、エヴェリナ父はひるんだようだった。

「家に上げるですって?詐欺師を家に上げるなんて、どうかしてるわ!大体、あなたが日和ったことばかり言うから、あの子があんな我儘になったんじゃないの!」

今度は、親父の方を攻撃。

この家は、父親より母親の方が気が強いらしいな。

「で、でも、エヴェリナの人生なんだ。あの子の好きなように…」

「あなた、それでも父親なの!?娘が犯罪者になりたいって言ってるのに、それを止めない親がいる!?馬鹿なこと言わないで!」

は、犯罪者?

魔導師を、犯罪者呼ばわりしてるのか?この女は。

すると、この役立たずの父親はもう良い、と言わんばかりに、夫に背を向け。

再びこちらを向いて、エヴェリナ母は怒鳴り散らした。

「とにかく、エヴェリナは学院には返しませんから!さっさと退学届の記入用紙を持ってきて!」

「え、で、でも…」

「あんたの言うことは信じないわよ!シルナ・エインリー。私は自分の娘を、あんたみたいな犯罪者集団の筆頭のもとに、預けるつもりはないから!」

は、犯罪者集団の筆頭?

シルナが?

一体何がどうなったら、そんな思考回路になるのだ。

何とか説得を、と思ったのも束の間。

エヴェリナ母は、話はもう終わり、とばかりに。

バン!と大きな音を立てて、玄関の扉を閉め。

わざとらしい音を立てて、ガチャッ、と鍵までかけた。

…嵐が過ぎ去ったような気分だ。
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