神殺しのクロノスタシスⅣ
一瞬で、俺もシルナも臨戦態勢に入った。

相手に敵意があるのは、その目を見れば一目瞭然だった。

…そちらから来てくれるとはな。

令月達が言っていた通りだ。

こちらからお前を探す手間が省けたよ。

ここぞとばかりに、聞かせてもらおうじゃないか。

だが、今はそんなことよりも。

「…私の生徒達に、何かしたの?」

シルナが、凍りつくような冷たい声で尋ねた。

普段のシルナからは、想像も出来ないほどだ。

それだけ、重要なことだから。

シュニィも言っていた。俺達の弱点。

俺達は、生徒を人質にされたら動けない。

対策は考えてあるが、イレースやナジュ達がいないこの状況で、複数人の生徒を人質にされたら。

俺達と言えど、少々キツいものがあるぞ。

しかし。

「…生徒…。この学院の生徒のことか」

男は、呟くように言った。

この言い方…。生徒を人質にするつもりはないのか?

いや、まだ警戒を解くには早い。

「お前…一体何者だ?何故賢者の石を集めている?」

「それはこちらの台詞だ。よくも、神聖なる石を卑劣な暴力の為に…!」

と、謎の男が怒気を含んだ声で、こちらに凄んできた。

が。

彼は、そのまま一歩も動かなかった。

いや…その言い方は違うな。

動けなかったのだ。

何故なら。

「…令月…すぐり…」

俺でさえ、見えなかった。

目視が追いつかないほど、一瞬の出来事だった。

いつの間にか、目の前に令月とすぐりがいた。

二人共、闇に溶けるような黒装束を身に着けていた。

二人の仕事着だ。

令月は両手に小太刀を持ち、いつでも男の首を刈り取れるよう、首筋にピタリと小太刀の刃を当てていた。

一歩でも動けば、令月の小太刀の錆にされることだろう。

そして、すぐり。

すぐりは両手に糸を絡ませ、男の両手足を拘束していた。

更に、細く透明な糸が、男の首を一周していた。

すぐりが少しでも力を入れれば、男の首は胴体と泣き別れだ。

…これが、元『アメノミコト』、『終日組』の暗殺者。

そして二人の、流れるような一連の連携は、見事と言う他なかった。

こんなのに狙われたんじゃ、生きて明日の陽を拝めまい。

つくづく、この二人を手放した鬼頭夜陰が愚かに見える。
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