神殺しのクロノスタシスⅣ
…なんてことだ。

俺達はずっとこの男を、『サンクチュアリ』の人間だと…。

賢者の石を悪用し、異次元世界を作り出した張本人。

あるいは、その片棒を担いだ人間だと思っていた。

一度襲ってきたのだから、敵だと思うのも当然だが。

しかし、蓋を開けてみれば。

敵だと思ってたのに、全然敵ではなかった。

むしろ彼は、不当に持ち去られた賢者の石を、あるべき場所に戻そうと奮闘していたのだ…。

「イーニシュフェルトの聖賢者…と言ったな。確かに、その石はお前達の作ったものだ…。だが、封印を託されたのは我が師であり、師はその封印を俺に託した。故に…返してもらう。力ずくでも」

成程。

先程までの事情を聞いていると、俺達の方が悪者に思えてくるな。

「令月君、すぐり君…武器を降ろして」

シルナが、未だ警戒を解かない二人にそう指示した。

「…信じるの?この人の言ってること…」

「デタラメ言ってるだけかもよ?やっぱ捕まえて縛り上げた方が良くない?」

過激発言。

「まさか。デルムトの弟子を名乗る人に、向ける刃はないよ。武器を降ろして。私も、彼に色々と事情を聞きたいんだ。敵対するのはやめにしよう」

シルナが、苦笑いしながら言った。

すると。

「…」

「ちぇっ…しょーがないな」

渋々といった風に、令月は小太刀を降ろし、すぐりもクナイをしまった。

が、デルムトの弟子は、相変わらず敵意丸出しだった。

「…賢者の石を返せ」

返さない限り、俺達は一向に、彼の敵のままなんだろうな。

いくらシルナがイーニシュフェルトの里の人間とはいえ、彼はまだ、俺達の立場を知らないんだからな。

故に。

「うん、返すよ」

シルナは何の躊躇いもなく、八つに砕かれた賢者の石の欠片を、デルムトの弟子に渡した。

あまりにもあっさりで、敵ではないと判明したとはいえ、大丈夫なのかと思ってしまった。

返した途端、手のひら返しで臨戦態勢…かと、思われたが。
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