神殺しのクロノスタシスⅣ
時刻は、既に深夜だったが。

すぐさま、イーニシュフェルト魔導学院の教師陣に、呼び声がかかった。

イレースと天音は早いものだったが、ナジュだけは、

「今リリスとイチャついてたのに…」とかブツブツ言って不満そうだった。

うるせぇ。こういうときこそ、お前の読心魔法が必要なんだよ。

申し訳ないが、デルムトの弟子には、ナジュが読心魔法を使えるという事実は伏せて、こっそりナジュに心を読んでもらうことにした。

そうすれば、この男が本当に真実を語っているのかどうか分かるはずだ。

試すような真似をして申し訳ないが、しかし敵ではないと言うなら、敵ではない保証が欲しかった。

ちなみに、元暗殺者組もちゃっかり話に加わる気でいた。

追い返したいところだが、残念ながらそれは出来ない。

助けてくれたからな。さっき。

それにこの二人は、自発的に飛び込んだとはいえ、賢者の石によって作られた異次元世界を体験している。

聞く権利はあるだろう。

…そんな訳で。

俺、シルナ、イレース、ナジュ、天音、令月とすぐりの七人は。

イーサ・デルムトなる人物の弟子…と名乗る者の秘密を聞くことになった。

これが深夜じゃなきゃ、シュニィ達も呼ぶんだがな。

こんな時間に呼びつけたんじゃ、俺がアトラスに殺されかねない。

それにデルムトの弟子にとっても、聖魔騎士団の人間はまだ信用ならないだろう。

俺達でさえ、彼の信用を充分得られている訳じゃないのに。

…それでは、改めて。

俺達はまず、それぞれ身分を明らかにした。

俺達は、イーニシュフェルトの名を持つ魔導学院の教師陣と…その生徒であることを、彼に話した。

話はしたものの、信用してくれているかどうかは別の話だ。

明らかに、疑ってかかってる目をしているもんな。

言葉だけで信用してくれと言われても、それは無理な話だ。

しかし、シルナは臆することなく、まず一番にこう尋ねた。

「…名前、聞かせてもらっても良いかな?」

…確かに。

さすがに俺も、ずっと「謎の男」とか「デルムトの弟子」とか呼んでるのは、もう苦しくなってきた。

名前を教えてくれると、とても助かる。

敵じゃないんだから、名前くらい教えてもらいたいものだ。

向こうが俺達を信用していないのは明らかだったので、答えないかな、とも思ったが。

「…寿木珠蓮(ことほぎ しゅれん)だ」

ポツリと呟くように、そう名乗った。

寿木…珠蓮。

それが、こいつの名前なのか。

「名前格好良いね」

「うん。すげー頑張って考えました、って感じ」

おい、元暗殺者組。

水を差すな水を。

「そっか。珠蓮君…。あ、私はシルナ。シルナ・エインリー」

「それは先程聞いた」

何回名乗るんだシルナは。

「え、えっと…。珠蓮君…は、イーサ・デルムトのお弟子さん…なんだよね?」

「そうだ」

「彼が弟子を取っていたなんて…意外だったよ」

「元々、師は弟子を取るつもりはなかったと言っていた。封印は自らの手で守り続けるつもりだったと…。だが、聖戦によって負った傷のせいで、そうも行かなくなった」

それはさっき言ってたな。

聖戦の後遺症で、自分はもう長くないと悟り。

封印の秘密を、誰かに託さなければならなくなった。

それで白羽の矢が立ったのが、この寿木珠蓮だったのだ。

「どうして君だったの?何故デルムトは、君を選んだ?」

「師は、身寄りのない魔導師達を数人集めて弟子にした。その中で最も封印の守り人に相応しい人物を選んだんだ」

成程。

つまりお前が、何人かいる封印の守り人候補生の中で、一番優秀だったと。

それで、この珠蓮という男が選ばれたんだな。
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