神殺しのクロノスタシスⅣ
「…俺は、師に封印の所在と、その解き方を教わった。俺と師だけだ。封印の全てを知る者は…。その後師は、俺が封印の守り人になるに相応しい資格を得ると同時に、そのときを待っていたかのように亡くなった」

…。

封印の守り人になるに相応しい資格。

それはつまり、あれか。賢者の石の魔力を引き出し、自在に操れる力のことか。

確か、訓練には千年単位でかかると言うあれ。

その手解きを、ちゃんと後継者に受け渡してから…。

つまり、己の役目をしっかり果たしてから、亡くなったんだな。イーサ・デルムトは。

「…さすがデルムトだね。族長の信頼を得ただけのことはある…」

学院勢の中で、唯一生前のデルムトを知っているシルナが、そう呟いた。

「俺は亡き師の後を継いで、賢者の石の封印を守り続けてきた。ずっと、長い間…」

「それなら、何で今、その石の封印が解かれているんです?守りきれてないじゃないですか」

おい、イレース。

毒を吐くなって。毒を。

折角流暢に喋り出したのに、珠蓮の機嫌が悪くなったらどうするつもりなんだ。

俺は内心ハラハラしていたが、しかし珠蓮は、その程度のことでは動じなかった。

「その通りだ。俺は封印を守りきれなかった。賢者の石の番人として失格だ」

「…」

…そんな、あっさりと自分の非を認められてしまうと。

こちらとしては、何も言い返す言葉がない。

割と素直なんだな。ナジュとは大違い。

「…何で僕と比較するんですか…」

うるせぇ。読心魔法使ってるとバレたら洒落にならんから黙っとけ。

俺は事実を言ったまでだ。

「賢者の石の封印…。その解き方を知っているのは君だけだ。それなのに何故、今賢者の石がここにある?君が封印を解いたのかい?」

と、シルナが尋ねた。

封印の解き方を知っているのはこの男だけなんだから、賢者の石がここにあるということは、珠蓮が封印を解いたからだろう。

俺はそう思っていた。

しかし。

「いや…封印を解いたのは俺ではない」

…何だと?

「じゃあ、誰が?封印の解き方を知っているのは、君だけじゃないの?」

「そうだ。全ての元凶は…確かに俺だが、しかし実行犯は…俺ではなく、俺の弟子がやったことだ」

…おい。

また、新たな登場人物が現れたぞ。

次から次へと、よくもまぁ…。話を複雑にしてくれるよ。

答え合わせのはずが、余計頭がこんがらがってきた。

何事も、一筋縄では行かないものだな。
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