神殺しのクロノスタシスⅣ
「そ、そんな、イレースちゃん!退学させない為に、話し合ってるのに」

と、シルナが抗弁するも。

「この場を宥めすかして、学院に戻らせて…その後はどうするんです?そこまで強硬に学院に戻らせることを拒んでいるなら、今回で終わりじゃありませんよ、きっと」

イレースは、きっとシルナを睨んで言った。

そ、それは…まぁ…。

「何かある度に、娘を家へ戻せ、退学させろ、とグチグチグチグチ、文句言ってくるに違いありません。そんな面倒な保護者を、いちいち相手していたらキリがない。いっそ望み通り、退学させた方がスッキリするでしょう」

一理ある、と思ってしまった自分がいる。

確かに、今回何とか説得して、エヴェリナ母を納得させたとしても。

あの剣幕だったのだ。また何かしらのきっかけで、「やっぱりやめさせる!」と言い出しかねない。

その可能性は、常に付きまとっている。

「ましてやその生徒、一年生なんでしょう?これから先六年も、そんなモンスターペアレントに付き合ってやる義理はありません」

と、バッサリ切り捨てるイレース。

ま、まぁ…。常日頃、学院に寄せられる、様々なクレームに対応しているイレースにしてみれば…。

そんな下らない苦情に、毎回付き合ってやれるか、という思いがあるのだろうが…。

それは分からなくもないのだが…。

「でもでも!本人は学院に戻ってくることを望んでるんだよ!?」

あくまで、本人の意志を尊重したいシルナ。

しかし。

「そうは言っても、その生徒は、所詮まだ子供でしょう。世話をしているのも、学費を出しているのも、そのモンペ親です。彼女を保護する権利を持っているのも、親なんですから。私達が口を挟んだところで、『娘は返さない』と言われれば、それまででしょう」

「う、うぅ…」

言われれば、そうだ。

エリュティアの親みたいに、いっそ諦めて。

「お前なんざもう知らん!勝手にしろ!」と言ってくれれば、こちらも勝手にするのだが。

エヴェリナ母の場合、あくまでも子供の為を思って、退学を希望してるんだもんな。

あくまで、エヴェリナの親権を手放す気はないのだ。

あれはあれで、娘の将来を願っての行動。

俺達が口を挟むのは、余計なお節介なのだ。

でも、でもだからってな…。

「本人が、本気で魔導師になりたい気持ちがあるのなら、学院になど通わず、独学でも魔導師にはなれます。本人がその気なら、いずれ上がってくるでしょう」

イレースはあくまで、親が退学させたいのなら、勝手に退学させることを推奨。

「でも、エヴェリナちゃんは…イーニシュフェルト魔導学院を出て、魔導師になることを望んでるんだよ?」

「そんなこと言ったって、仕方ないでしょう。親が反対してるんだから。子供である以上、親に逆らってまで出来ることはたかが知れています。自分の家はそういう家なのだと納得するしかありません」

イレース…手厳しいな。

でも、その意見も正しいのかもしれない。

俺達が何とかしようとしても、結局彼女の親が納得しなければ、どうしようもない。

エヴェリナの養育権を持っているのは、彼女の両親なのだから。

「下手に父兄を敵に回して、学院の印象を悪くしたくもありません。その生徒には気の毒ですが、ここは諦め…」

と、イレースが言いかけたら。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

天音が、イレースの言葉を止めた。
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