神殺しのクロノスタシスⅣ
「…もう、王都からは出られませんよ」

唾を飛ばしながら口論する、『サンクチュアリ』のメンバーに。

私は、無情にそう告げた。

「な、何…?」

「聞こえませんでしたか。言葉の通りです。もう王都からは出られません」

どうやらこの人達は、聖魔騎士団の手を逃れたかったようだけれど。

もう、それが出来る時期は過ぎた。

認めざるを得ない。

予想以上に、この国の番人は優秀だった。

賢者の石によって作った、あの異次元世界。

そこに、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長を名乗る、強力な魔導師達を…。

傲慢な魔導師達を…閉じ込めてしまえば。

永遠に出てこられないか、あるいは何十年、何百年単位で、戻ってはこられないと思っていた。

前者なら儲け物だと思っていたが、この国の魔導師は、予想以上に優秀だった。

まさか、こんな短期間で…たった数日足らずで…戻ってくるなんて。

完全に奇襲をかけたはずなのに、何故奴らは戻ってきている?

そもそも、何故戻ってこられたのだ?

異次元世界の突破法を、どうやって知った?

偶然閃いたとでも言うのか?まさか…。

奴らはそれぞれの世界で、心を折られるような体験をしたはずだ。

常人の精神力なら、簡単に呑み込まれてしまうほどに。

それなのに、どうして奴らは戻ってきたのだ。

どんな図太い神経をしている…。

…さすが、国を代表する魔導師ともなれば。

そんなことで動揺するほど、繊細な神経の持ち主という訳ではないらしい。

異次元世界から戻ってこられたのだということは、それだけ面の皮が厚いということだ。

他人の不幸に背を向けて、自分が帰還することだけを優先したからこそ、戻ってきているのだから。

卑劣な人間達。

そして、優秀な魔導師だ。

本来の計画なら、奴らが次々に異次元世界に囚われ。

国内から有数の魔導師が消えたことで、動揺する国民を『サンクチュアリ』がまとめるつもりだった。

ここぞとばかりに、魔導師排斥論を国内に浸透させるつもりだった。

可能なはずだった。賢者の石の力を使えば。

例え異次元世界から帰還出来たとしても、帰ってきた頃には、この国に奴らの居場所などなくなっているはずだった。

…そのつもりだったのに。

「最早逃げ道などありません。聖魔騎士団なら、こんなお粗末な隠れ場所など、すぐに見つけるはず。座して時を待つのが良いでしょう」

私達に出来る抵抗など、もうそれ以外にない。

聖魔騎士団には、異次元世界をあんなに早く脱出出来るほどの、優秀な魔導師が集まっているのだ。

今頃、私達の居場所くらい突き止めているはず。

そして、傲慢な顔で、勝ち誇った顔で、醜悪な顔で、我が意を得たりとばかりに、私達を捕まえに来るであろう。

私達は、それを待っていることしか出来ないのだ。
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