神殺しのクロノスタシスⅣ
醜く逃げ回っても、恥を晒すだけだ。

賢者の石という切り札を失った以上、私達に抵抗の手段はない。

例え爆弾を持って飛び込んだとしても、魔導師相手では、あっさりと防御壁を張られておしまいだ。

人質を取っても同じこと。魔導師に対抗するには、同じく魔法によって作られた力でなければ歯が立たない。

その点、賢者の石は、切り札として相応しい代物だった。

魔導師最大の武器である魔法を封じ、また賢者の石に内包されている魔力によって異次元世界を作り出し、そこに魔導師を閉じ込めることが出来る。

だからこそ、私はこの切り札を我が物にする為に、何千年も耐え続けたというのに…。

…全て無駄になった。

残念だ。

何千年越しの計画が無駄になって、とても残念だ。

だが、今更足掻いたところで、どうなるという訳でもない。

今は、その「時」ではなかったというだけのこと。

私は落ち着いて座って、奴らが厚顔無恥にも私達を捕まえに来るのを待てば良い。

「ば、馬鹿なことを…!俺はこんな泥舟に乗って、一緒に沈むのは御免だ!」

メンバーの一人が、そう叫んだ。

泥舟とは。

その泥舟に、自分から乗り込んだのは誰だ?

泥舟と分かっていて乗り込んたのだから、その泥舟が沈むとき、運命を共にするのは当然だ。

「そ、そうだ…。残りたいなら、勝手に残れ!俺はこんなところで捕まりたくない!」

「私だって…!今からでも遅くないわ。すぐに王都を出て…」

…そうだというのに、この愚か者共は。

今に至っても、見苦しく逃げる方法を考えるか。

そんなことをしても、無駄だというのに。

…と、思ったそのときだった。




地上に繋がっている扉が、けたたましい音を立てて破壊された。

「…来ましたね」

ルーデュニア聖王国、聖魔騎士団からの「お迎え」が。
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