神殺しのクロノスタシスⅣ
アトラスの後を追い、急いで廃ビルの地下に降りると。

そこは既に、(たった一人の男によって)阿鼻叫喚の様相を呈していた。

「お前か!?俺のシュニィを魔女だと新聞に書いたのは!」

「ひぃぃっ」

アトラスが地下に通じる扉をぶっ壊した、その音を聞きつけて。

慌てて逃げ惑う『サンクチュアリ』のメンバーらしき男を、一人とっ捕まえて。

アトラスは、鬼のような形相で凄んでいた。

「シュニィの何処が魔女だと?何処からどう見ても、美の女神の化身だろうがっ!!」

お前がキレるポイントは、そこかよ。

「修正しろ!今すぐ新聞を書き直せ!やっぱりシュニィはルーデュニア聖王国史上、いや、全人類史上類を見ない美人であると!!」

「お、俺は新聞担当じゃ、」

「貴様!俺のシュニィを否定するか。なら目をかっ開いてよく見ろ!とくと見ろ!どうだ美人だろうが!悔い改めろ!!」

「ひぃぃ!」

…えーっと。

俺達、帰っても大丈夫そう?

とりあえず、シュニィが顔を真っ赤にして。

あと珠蓮が、奇妙な何かを見るような目で、アトラスを見ていた。

なんかごめんな。

ついでに、ナジュだけは抱腹絶倒だった。

笑い事じゃねぇんだよ。なんか笑い事みたいになってるけども。

「アトラスさん!私のことはどうでも良いですから!」

シュニィが、顔を真っ赤にして怒鳴った。

が。

「何がどうでも良いんだ!?シュニィが最優先事項に決まってるだろう!」

「それより、『サンクチュアリ』の構成員を捕らえ、『サンクチュアリ』のリーダーを拘束するのが先です!」

「待てシュニィ!俺はこいつらに、シュニィの女神の如き美しさを叩き込まんことには、ご先祖に申し訳が立たない!」

「万が一『サンクチュアリ』を逃してしまうことがあったら、その方がご先祖様に申し訳ないでしょう!」

俺達は、どういう夫婦喧嘩を聞かされてるの?

とにかく、シュニィが美人であるということを認めさせなければ、気が済まないらしいアトラスである。

しかし、そこはさすが、そんなアトラスの妻シュニィは、夫の扱いを弁えていた。

「アトラスさん。きっと新聞の記事を考えたのは、『サンクチュアリ』のリーダーですよ。私を魔女と書かせたのも、きっとそのリーダーでしょう」

苦肉の策とばかりに、シュニィはわざとらしくそう言った。

こんな子供騙し、今日日、誰が引っ掛かるんだろうと思うけど。

「何!?本当か!」

こんな子供騙しが、見事にぶっ刺さる男がいる。

「えぇ。だから先に、リーダーを捕まえましょう?」

「よし、分かった任せろ!そいつを捕まえて、シュニィの前に引っ立てて、そして新聞を書き直させる!」

「新聞の発行はもう結構です」

という、本当にコントみたいなやり取りだけれども。

これでめちゃくちゃ頼りになるから、この夫婦のお陰で、ルーデュニア聖王国は安泰だよ。
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