神殺しのクロノスタシスⅣ
「ヴァルシーナちゃん…!?」

ヴァルシーナ・クルス。

シルナと同じく、イーニシュフェルトの里の生き残り。

そして、彼女の祖父は、他でもない珠蓮の師匠に、賢者の石の封印を託した人物だ。

因縁浅からぬ関係のヴァルシーナが、何故ここにいる。

それだけではない。

「お前っ…!」

ヴァルシーナが、片手に持っているもの。

それは、賢者の石だった。

俺達が、何より珠蓮が探している、賢者の石の最後の欠片。

「何で…お前がそれを持ってる…!?」

それは、異次元世界を攻略した者しか手に出来ないはず…。

と、そこまで考えて。

俺達は、同時に気がついた。

まさか…ヴァルシーナは…。

「何故持っているか、だと?それはお前達と同じ理由だ」

…やはり。

ヴァルシーナも…。

「君も…異次元世界に入ったんだね」

「…」

シルナの問いかけに、ヴァルシーナは答えなかった。

しかし、沈黙は何より肯定を意味する。

そうか、そういうことか。

それなら辻褄が合う。

ヴァルシーナなら、異次元世界を破壊出来るほどの実力がある。

そして、俺達と仲良しこよしするつもりは微塵もないのだから、帰ってきたとき、手に持っていた賢者の石を…そのまま持ち去ったのだ。

ヴァルシーナが、10人目の攻略者だったのだ。

「お前…その石を、返せ」

俺がそう言うと、ヴァルシーナは不快そうに眉を顰めた。

「返せだと?これは貴様のものではない。我が祖父が…イーニシュフェルトの里の賢者が、イーサ・デルムトに託したものだ」

その通り。

確かに賢者の石は、俺達のものではない。

でも、それを言うなら。

「お前のものでもないだろう」

その石を作ったのも、封印したのも、その封印を託したのも、お前の祖父だが。

しかしだからって、お前が賢者の石の所有権を持つ訳ではない。

それは傲慢というものだ。

ヴァルシーナは、もしかして。

賢者の石を、兵器として使おうとしているのか。俺達に対する切り札として…。

充分考えられることだ。

彼女には、それだけの動機がある。

しかし。

「その通り。これは私のものではない」

そう言って。

ヴァルシーナは、片手に持っていた賢者の石を、こちらに素早く放り投げた。

投げられた賢者の石を、俺は反射的に受け止めた。

…何だと?
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