神殺しのクロノスタシスⅣ
異次元世界は、あらゆる手段で入った者の精神を抉る。

俺もシルナも、お互いに見たくないお互いの姿を見せられたし。

令月、すぐり、ナジュの三人も、過去の傷を抉るような体験をさせられたらしい。

そして、最初に入った吐月達四人も…メンタルを削られるような、他人の記憶の追体験をさせられたそうだ。

だから、ヴァルシーナも。

異次元世界に行ったということは、それなりの体験をしたはずだ。

今は、けろっとした、いつもの気丈な顔を見せているが。

異次元世界にいたとき、帰ってきた直後は…それなりに傷ついていたはずだ。

特にヴァルシーナは…これまで何度も、辛酸を舐めさせられてきたからな。

まぁ、全部俺達のせいなんだけど。

だから、俺達に…特に、その元凶を作ったシルナに心配をされるというのは…ヴァルシーナにとっては、癪に障ることこの上ないだろうが。

それでも心配をしてしまうのが、シルナの性質だな。

「貴様に心配されるほど、私は脆くない」

案の定ヴァルシーナは、シルナの心配を跳ね付けるようにそう言った。

「それに、貴様に心配してもらう謂れはない。虫酸が走る」

酷い言われようだ。

敵だから当たり前だけどな。

…でも。

俺やシルナでも、あの異次元世界は、相当メンタルを削られた。

ヴァルシーナだって、いくら意志が強いとはいえ、多少なりとも堪えたはずだ。

そんな弱みを、他人に見せないのも…ヴァルシーナらしいけどな。

「…それでも、だよ。…ありがとうね、賢者の石…持って帰ってくれて」

「私はただ、里の遺産を穢す輩を許せなかっただけだ」

そうかい。

それだけ言って、ヴァルシーナはふっと消えた。

どうやら、俺達とドンパチやっていく気はなく。

本当に、賢者の石を返しに来ただけのようだ。

まぁ、俺とシルナを前に、人質も取らずに真正面からやり合って、勝てるはずがないと承知しているからだろうが。

…いずれにしても。

予想していないところから、賢者の石の欠片が、こうして全て揃った。

珠蓮を送り出す手土産は、これでもう充分だな。
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