神殺しのクロノスタシスⅣ
換気をしたら、ひとまず、噎せ返るようなチョコレートの匂いも落ち着き。

天音の吐き気も、無事に収まった。

良かった。

シルナは、あの噎せ返るチョコの匂いに、気持ち悪くなるどころか、快感を覚えていたらしく。

何だかショックを受けているみたいだったが、知らん。

お前の鼻はどうなってるんだよ。

ともあれ、ようやく落ち着いて部屋に入れる。

まだチョコ臭いけどな。

「全く、何を考えてるんだシルナは…」

「もぐもぐ」

「天音さん治りました?大丈夫です?」

「う、うん…。ありがとう、大丈夫だよ…」

「むぐむぐ」

「それで、何なんです。朝からこれほどまでに他人を不愉快な気持ちにさせたんですから、それ相応の理由があるんでしょうね?」

「ふ、不愉快!?何処が!?至福の時でしょ?」

それはお前だけだろ。

…それから。

「…おい、令月。すぐり」

「もぐ、ごくん」

「何ー?」

「お前ら、何事もなかったかのようにチョコ菓子を食らうのをやめろ」

大人達の戸惑いや躊躇いなど、まるで見なかったかのように。

平気な顔して、普通に食ってやがる。

お前ら、食堂で朝食の時間だろうが。何でこんなところでチョコ菓子食ってんだよ。

良いか、良い子はチョコレート菓子で朝ご飯を済ませたら駄目だぞ。

たまには良いかもしれないが、朝からこんなの食べたら、虫歯になるからな。

そして糖分取り過ぎ。あとチョコ臭い。ろくなことがない。

やっぱり健全な青少年は、朝は御飯と味噌汁、あるいはトーストを食べて、一日を始めるべきだと俺は思う。

朝から、濃厚なチョコレートがとろけるフォンダンショコラだの、クリームたっぷりのシフォンケーキだの、もっての外。

見てみろ、このイレースの顔。

しかめっ面を通り越して、般若の顔に变化しかけてる。

完全に赤信号だろこれ。

それなのに、大量のチョコレート菓子を前にして、るんるん気分のシルナは。

そんなことお構いなしに、令月達と同じくチョコレートを摘んでいた。

「あ〜美味しい〜」

幸せな奴だよ、全く。

そんなことより。

「何なんだよ、シルナ」

「…ふぇ?」

チョコクリームを口の端にくっつけたまま、こてんと首を傾げるシルナ。

可愛い少女がやれば、多分凄い絵になるんだろうけど。

おっさんがやると、ただのグロ画像でしかない。

吐き気を催した人、いたらごめんな?

「朝から俺達を呼びつけて、チョコレートハラスメントを仕掛けて、何がしたかったんだって聞いてるんだよ!」

「ハラスメント!?何処が!?朝からチョコレートに囲まれると嬉しいでしょ?」

それはお前だけだ。

お前と令月とすぐりだけだ。

「さっさと用件を言ってください。私は忙しいんです」

般若になりかけているイレースに、若干ビビりながら。

「これはね、これは、前祝いだよ!」

シルナは、わたわたしながら、そして嬉しそうに言った。

…前、祝い?
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