神殺しのクロノスタシスⅣ
しかし。

一通り、チョコレートを配り終えたシルナが、騒ぎながら学院長室に戻ってきた。

「大変だよ羽久(はつね)!」

お前の頭の中以上に、大変なものがあるのか?

「何だよ」

「大変なんだ!ほら見て!」

シルナは、袋詰めされたチョコレート菓子を入れた、巨大な段ボール箱を指差して言った。

あれだけ生徒に配りまくったのに、段ボール箱には、まだぎっしりとチョコレート菓子の詰め合わせが残っている。

多いな。

どんだけ用意してたんだよ。

見ろ。経費で落とされたに違いない、この大量のチョコレート菓子を見て、 

イレースのこめかみに、ピキピキと血管が浮いてる。

しかしシルナは、全く気づいていない様子。

「足りなかったらいけないと思って、予備に150個くらい用意してたんだけどね?」

予備多過ぎだろ。

「見てほら!凄い余ってる!200個以上余ってるんだよ!おかしくない!?」

おかしいのはお前の頭だ、と言いたいのを堪え。

努めて、冷静に考える。

確かにおかしい。

シルナが、全校生徒の人数+150個用意していたなら。

帰ってきた全生徒に配って回れば、たまに「もう一個く〜ださい」ってなお茶目な生徒がいたとしても、残りは予備分の150個を切るはず。

200個以上も余るはずがない。

え?「チョコレートなんて要らないです」と辞退した生徒がいたんじゃないかって?

いる訳ないだろ、そんな生徒。

そりゃあ生徒の中には、「別に甘い物好きじゃないんだけど…」っていう生徒もいるだろうけど。

だからって、学院長のチョコレートを拒否しようものなら。

「え!何で!?何でチョコ食べないの何で!?どうしたの、大丈夫!?」と、目を真ん丸に見開いて驚愕され、まるでこちらが異常者のような扱いを受けることになる。

ので、甘い物苦手な生徒でも、一応シルナからチョコは受け取り。

後で、友達やクラスメイトにこっそりあげるらしい。

ごめんな、本当。シルナの異常なチョコ好きに付き合わせて。

来年度の入学パンフに掲載する募集要項に、「チョコレートを食べられる者」って追記しとくよ。

とにかく、学院に戻ってきた全ての生徒に、チョコを渡しているはずなのに。

何故か、予備分150個を含め、200個以上余っている。

シルナは今朝、朝一番に校門に陣取って。

一人も逃さず、帰ってくる生徒全員に声をかけ、そしてチョコレートを配っていた。

配り忘れた、なんてことは有り得ない。

おかしいな…。何があっ、

「確かにおかしいですね。もぐもぐ。こうして、僕がこっそり摘み食いしてるのに、もぐもぐ。まだそんなに残っているとは」

「…ナジュ…お前…」

振り向くと、何事もなかったかのように、生徒用に用意されたチョコレート菓子を、もりもり食ってる男がいた。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシア。

俺と同じく、イーニシュフェルト魔導学院の教員である。

ついでに言うと、イーニシュフェルトで一番、ろくでもない教師でもある。

それは何故か。

「失礼ですね羽久さん…。僕ほど模範的なイケメンカリスマ教師は、ルーデュニア聖王国広しと言えど、そうはいませんよ」

「…そういうところだよ」

こいつが、世にも珍しい、読心魔法の使い手であるからだ。
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