神殺しのクロノスタシスⅣ
「じゃあ、じゃあ聞くけどさ!」

それでも、諦められないらしいシルナ。

元々夢見がちなだけあって、念願の夢が寸前で潰えたのが、相当堪えているようだな。

「何です」

「お金の正しい使い方って何!?そのお金を来年まで貯め込んで、何に使うの!?貯め込んでるだけじゃ、ないのと一緒じゃない!」

屁理屈こね始めたぞ。

「貯金というのは、使うことではなく、貯めておくことに意味があるんです。何かあったとき、不測の事態に備えて」

うちの学院、常に色んな不測の事態が起きるもんな。

予算なんて、いくらプールしておいても足りないくらいだよ。

「そうやって貯め込む者が多いから、経済が回らなくなるんですね」

と、再びシルナに援護射撃するナジュである。

「世の中の経済について考えるのは、政治家と経済学者の仕事です。教員の仕事ではありません」

しかし、相変わらず冷たい声でバッサリと切り捨てるイレース。

天音がその間に挟まって、おろおろしているのが気の毒だった。

元暗殺者生徒は、大人達が唾を飛ばし合うのを眺めながら、チョコ菓子を摘んでいた。

お前達だけは平和だな。

「よし、よーく分かった!」

シルナが、パンと手を打って立ち上がった。

…どうした?

「この奨励金は、確かにイーニシュフェルト魔導学院のもの。つまりここにいる皆のものだ!」

…。

「だったら、このお金をどう使うのかも、皆で話し合って決めよう!それなら異論ないよね!?」

…。

…何か言い出したぞ。

「異論あるに決まっているでしょう。私が経理担当なんですから、決定権は私に…」

「はい!まずナジュ君!君ならこのお金を何に使う!?」

「…」

イレースのこめかみに、ピキッ、と血管が浮き出ていたのは…。

…見なかったことにした。

俺だって、元ラミッドフルスの鬼教官を敵に回すなんて、怖いに決まってるだろ。

一方、名指しで意見を求められたナジュは、

「そりゃ決まってますよ。教員の冬のボーナス増額に宛ててください」

お前は本当に、自分の欲望に素直だな。

ある意味、一応生徒の為に使おうとしているシルナの方が、まだマシでは?

「この銭ゲバ教師め…」

金があっても、お前使わんだろうがよ。

「だって、学院が模範的だとみなされたのは、僕達教員の努力の賜物でしょう?だったら、その奨励金を教員に還元するのは、企業としては当然なのでは?」

説得力を持たせようとするな。

そりゃまぁ確かに、これが一般企業なら、「お国からよく出来ましたと認められて、お金をもらいました。が、このお金は会社の為に使います」なんて言われたら。

従業員は、「国に認められたのは俺達の功績なのに、俺達への還元はないのかよ」と不貞腐れるのは当然だ。

それに、イーニシュフェルト魔導学院の教員の給料事情は、結構切ないからな。

たまに保護者から、「良い給料もらってんたろ」とか、陰口叩かれることもあるが。

多分、あなたの給料の方が高いと思う。

そう考えたら、奨励金を社員(=教員)に、ボーナスという形で還元するのはアリ…だと思ってしまった。

ナジュに洗脳されるところだった。危ねー。

いずれにしても、決めるのは、大蔵大臣のイレースだから。
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