神殺しのクロノスタシスⅣ
線香という、妙に古めかしい道具。

そして、夜間に鍵のかかった部屋に侵入するという手口。

…まさか、これは。

「…おい、そこのひそひそ暗殺者組」

「喜んでもらえたみたいで良かったね」

「ねー。一部屋一部屋回った甲斐があったよ」

「返事をしろ」

さては貴様ら。

やはり、何かを知ってるな?

「あなた達…何をしたんです?」

イレースの鋭い眼光が、二人の元暗殺者生徒に突き刺さった。

が、二人共なんてことないみたいな顔をして、

「何もしてないよ?」

「うん。ただちょっと、線香置いて回っただけ」

それは、何もしてない内には入らないんだよ。

確信犯じゃないか。

「馬鹿かお前ら?何をやってんだ!?」

「え、何でキレんの?」

「キレるに決まってるだろうが!悪戯にしてはタチが悪過ぎるぞ!いたいけな生徒達を朝からこんなにビビらせて…何がやりたかったんだお前らは!」

と、問い詰めてみると。

二人共、自分達が何を悪いことをしたのか、よく分かっていない様子で。

「何がって…。僕達は皆の為に頑張ったんだよ。ね?」

「うん。これは俺達の、ボランティア精神から始めたことだもんね〜」

人をビビらせることの、何がボランティア?

「お前ら、この…!」

さすがにブチギレそうになった、そのとき。

「だって、今年は虫が多くて嫌だって、僕のルームメイトも言ってたし」

「そーそー。ツキナも言ってたよね〜。寝ようとしたら耳元に飛んでるから、むきゃーっ!ってなって眠れないって」

「やっぱり作って良かったね」

「うん。深夜に忍び込んだ甲斐かあったよね〜」

…ちょっと。

聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど?

「…虫って何のことだよ?」

改めて聞いてみると。

「虫は虫でしょ」

との答え。

そうじゃない。

「お前ら、二人して学生寮の全部屋に忍び込んだのか?」

「うん」

何の躊躇いもなく頷きやがった。

女子寮にも平気で入ったってことだよな?

この、不埒者め。

こいつらが良からぬことを企むはずもないが、しかし倫理的にはアウトである。

「何の為に!?」

「蚊取り線香。設置してまわろうと思って」

か…。

…蚊取り線香?
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