神殺しのクロノスタシスⅣ
それだけでも、大迷惑だが。

しかし、思えば…生徒達が勝手に開ける前で良かった。

最悪、生徒に死者が…。

…いや待て。イレースだったら、最悪の事態が起きても良いとは言ってない。

イレースに何かあったら、それもそれで最悪だよ。

「イレースには、『恐怖』の感情を教えろって言ってたよな?それってつまり…他の感情もあるってことか?」

『恐怖』が終わったら、次はまた別の小人が、別の感情を教えろと迫ってくるのか。

また、七日後に殺される指輪を嵌められて?

「そうだね。七人の小人だから…教える感情も、七つ分だろうね」

冗談じゃない。イレースがもし「恐怖」を突破出来たとしても、まだ序の口ってことじゃないか。

残り六つ分、最低でも六人は、誰かが命の危機を背負う羽目になるんだろう?

しかも、契約者は一人から二人、って言ってたよな。

小人一人につき一人の契約者なら、合計七人の被害で済むが。

もし契約者を二人に設定されたら、最高十二人が、死の危機に瀕する訳だ。

…冗談じゃない。

今日だけで、何回冗談じゃないって言ったか。

本当、冗談じゃないよ。

「…まさか、園芸部の畑から、こんなものが出土するとは」

「いやー、分かんないもんだねー」

それなのに、元暗殺者組は意外と余裕。

事の重大さを、分かっていない訳ではないのだろうが。

あんまり軽い感じで言うので、つい「お前ら、本当に状況分かってんだろうな?」と聞きたくなる。

「…起きてしまったことは、もう仕方ないじゃないですか」

緊迫している俺の内心を読んだのか、ナジュがそう言った。

「仕方ないって言ってもな…」

仕方ないから頑張ろう、じゃ済まないだろ。

「大体羽久さん。あなた、戻れるかどうかも分からない異次元世界に飛び込んで、それでも無事に戻ってきたじゃないですか」

「それは…」

「あの体験に比べたら、少なくとも七日間の猶予は与えてもらえる『白雪姫と七人の小人』は、まだマシでは?」

…そう言われたら、そうなんだけど。

「感情を教える…っていう、小人の要求に応えられたら、命は保証してもらえるみたいだし…。こうなった以上、確実に要求に応えることを優先しよう」

と、天音。

前向きだな。

こうなっては、最早後ろ向きに考えていても仕方ないからだろうが。

…そう。

後ろ向きに考えても仕方がない。

天音の言う通りだ。死ぬと決まった訳じゃない。ようは、小人の要求に応えれば良い。

そうすれば、当座は安心なのだから。

…よし。
< 535 / 795 >

この作品をシェア

pagetop