神殺しのクロノスタシスⅣ
「イレース…。大丈夫か?」

「何がです?」

突然、こんな摩訶不思議な魔法道具に翻弄され。

七日後に死ぬかもしれない運命に、突然見舞われたというのに。

イレースは少しも取り乱すことなく、むしろ俺が見習いたくなるほどに冷静だった。

尊敬するよ。

どうしてそんなに落ち着いていられるのか、心配になるくらいだ。

普通、もっと狼狽えるとか…取り乱すとか…しても良いと思うんだが。

「不安じゃないか?こんなときだ。無理して強がらなくて良いんだぞ」

泣きじゃくっても、狼狽しても、喚き散らしても良い。

普通だったらそうなる。

小人の要求に応えられなかったら、七日後に死ぬ運命が決まってしまったのだから。

こんなに恐ろしいことがあるか?

イレースは今、七日後に刃が落ちてくるギロチン台の上に、首を乗せた状態なのだ。

平静でいられる訳がない。

…それなのに。

「別に強がっているつもりはありません。ようは、あのクソ生意気な小人に、恐怖を教えてやれば良いんでしょう?」

さらりと、何でもない風に言うイレース。

「それは…そうだけど」

「なら、うじうじしてても仕方ないですね。時間の無駄というものです。そんな暇があったら、即行動。それだけです」

…自分の命が懸かっているというのに、この度胸。

恐れ入るよ…本当。

「それより、私を心配するなら、手伝ってください」

「え…?何を?」

「何をって、明日の準備に決まってるじゃないですか」

明日の…準備?

「恐怖の授業を行う為の準備ですよ」

「あ、あぁ…。分かった」

それで、イレースの助けになるなら。

「…ふむ」

イレースの心を読んだらしいナジュが、ぼそっと呟いた。

「大丈夫ですよ羽久さん。彼女、全然死ぬ気ないですから」

そ…そうなのか?

めそめそしているよりは、ずっと良いと思うけど…。

でも、やっぱり無理をして強がっているんじゃないか。本当は、策なんてないんじゃないか…。

…と。
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