神殺しのクロノスタシスⅣ
――――――…話を戻して。

南方都市シャネオンにある、オーネラント家にて。

俺とナジュは、ようやくこの家のリビングに入れてもらえた。

前回、話も聞いてもらえず、門前払いを食らったことを思えば。

マジで凄い進歩だと思うよ。

やべぇな、マジでもう。

ナジュの手口が、詐欺師過ぎて。

皆、訪問販売や宗教勧誘には気をつけろよ。ナジュみたいな、顔だけは良い訪問員には、特に要注意だ。

良い顔して良いこと言ってるように見えても、中身、腹黒どころじゃないから。

漆黒の腹だよ。

「本当に済みませんね、いきなり訪ねてきてしまって。ご迷惑だったでしょう?」

「…いえ…」

昨日とは打って変わって、静かなエヴェリナ母。

ナジュの、無駄に人の良い笑顔と、終始低姿勢のせいで…怒るに怒れないのだろう。

「ところで奥さん、今日は、ご主人はご在宅ですか?」

と、ナジュは笑顔のまま尋ねた。

「主人ですか?…書斎にいますけど…」

「あぁ、それは良かった。宜しければ、ご主人も同席の上で、お話させて頂けませんか?」

ピンと来た。

さっきナジュは、俺の心を読み、この家は母親より、父親の方が気性が穏やかだと知り。

その上で、あわよくば父親を味方につけようと、この場に呼ぼうとしているのだ。

「やはり、大事なお嬢さんの将来に関わることですから。ご主人も同席された方が良いかと…」

なんて、もっともらしいこと言って。

単に、味方増やしたいだけだからな。詐欺師舐めたらいかん。

そして、エヴェリナ母は、その詐欺師の罠にハマる。

「…分かりました。呼んできます」

そう言って、エヴェリナ母は席を立ち、書斎に向かった。

…リビングに、俺とナジュの二人きりになった瞬間。

「…さっきから、僕に対して失礼過ぎません?誰のお陰で、ここまでこぎ着けたと思ってるんですか」

「仕方ないだろ。お前が詐欺師なのが悪い」

「僕の何処が詐欺師ですか。こんなにイケメンで、人の良い善良な人間はいませんよ」

「その笑顔で人を騙し、読心魔法で相手の心境を伺いながら、シルナを悪者にして人の家に上がり込む奴が、何だって?」

「しっ…っつれいな…」

「ほら、もう戻ってきたぞ」

ナジュとの、僅かなお喋りの後。

エヴェリナ母が、夫であるエヴェリナ父を連れて、リビングに戻ってきた。
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