神殺しのクロノスタシスⅣ
途端、ナジュの詐欺師モードが再発動。

「これはこれは、旦那さんまで呼びつけてしまって、大変申し訳ない。お忙しいところを…」

「あ、いえとんでもないです。娘の為に、わざわざ足を運んで頂いて…」

やはり、エヴェリナ父は、エヴェリナ母よりずっと話が分かる人のようで。

ナジュと違って演技ではなく、本当に申し訳なさそうな顔で、頭を下げた。

良かった。

エヴェリナ父がいてくれれば、もしエヴェリナ母がヒートアップしても。

何とか、緩衝材の役目を果たしてくれそうだ。

「それで、今日はお嬢さん…エヴェリナさんのお話をしに来たんですが…」

ナジュは、相変わらず微笑みを絶やさずに言った。

「聞いたところによると、エヴェリナさんを学院から退学させたいとか?」

「えぇ。そのつもりです」

エヴェリナ母は、先程とは打って変わって、きっぱりと答えた。

その話ならもう議論の余地なし、と言わんばかりの強硬な態度である。

この鉄壁を崩すのは、容易ではないぞ。

「それはまた、急なお話ですね。どうなさったんですか?」

分かってる癖に、とぼけた聞き方しやがって。

白々しいったらない。

「大体、私は娘を魔導学院なんかに入れるのは反対だったんです」

魔導学院「なんか」とまで言われてしまった。

悪かったな。魔導学院「なんか」で。

「魔導師を育てる学校だなんて…。詐欺師を育てる学校の間違いだわ」

「こ、こらお前…。やめないか…」

吐き捨てるように言ったエヴェリナ母を、エヴェリナ父が諌めようとしたが。

エヴェリナ母は、今度はキッ、と夫を睨んだ。

「あなたがそんな態度だから、あの子が我儘になってしまったんじゃないの。私は反対してたのに、イーニシュフェルトなんか受験させて、なまじ受かったものだから、良い気になって…」

「そ、それは、でもエヴェリナ自身もそう望んでたし…」

「あの子は、ただあのシルナ・エインリーに騙されてるだけなのよ。あの白々しい能天気な顔ったらないわ。あの顔で、人を騙すのよ。信じられないわ」

いや、どっちかと言うと。

今あなたを騙してるのは、白々しい笑顔を浮かべている、目の前の読心魔法教師なんだが?

そっちは疑わないのか?

「それから、今回のシャネオン駅の事件で確信したわ。あの事件は、魔導師排斥論者が起こした事件だそうね」

「えぇ、そう報道されてますね」

と、ナジュが答えた。

ちなみにあの事件の犯人は、無事捕まった。

エリュティアの努力の賜物である。

しかし。

「やっぱりね。魔導師なんて所詮インチキ呪い師だって、皆分かってるのよ。だからあんな事件が起きたんだわ」

そう捉えるのか、あんたは。

あの事件を聞いて、「魔導師排斥論者怖い」と思うのではなく。

「やっぱり魔導師排斥論者は正しいんだわ!」と思ったのか。

「私と同じ意見の人がいる!やっぱり私は間違ってない!」という、確信を得てしまった。

だから、エヴェリナを学院に返すことを拒んだのか。
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