神殺しのクロノスタシスⅣ
こんな醜い大人同士の争い、絶対に子供には見せたくなかったのに。

来てしまったか。まぁそうなるよな。

学校の先生が二人も家にやって来て、リビングから母親の怒鳴り声が聞こえたら。

自分のせいで、こんなにも言い争っていると思えば…割り込まずにはいられまい。

「も、もう良いから…!私、イーニシュフェルト魔導学院をやめるから。それで良いでしょ?」

おい、ちょっと。

なんてことを。

「私、もう我儘言わないから。だから喧嘩しないで。もう良い、もう良いから…」

何がもう良い、だ。

「エヴェリナ…!お前、本気で言ってるのか?今ここで諦めたら、一生後悔するかもしれないんだぞ」

俺は、思わず口を挟まずにはいられなかった。

こんなこと言ったら、余計エヴェリナ母の怒りの炎に、油を注ぐようなものだが。

しかし、言わずにはいられなかった。

「う、うん…。良い、良いです」

エヴェリナは、涙目で頷いた。

本気かよ。

「私はもう、学院をやめます。魔導師にもなりません。それで良いでしょ?」

何が良いんだよ。

何も良くないだろうが。そんな泣きそうな顔して。

「だから、先生。退学届をください」

「…」

ナジュは、そう頼み込むエヴェリナを、しばしじっと見つめ。

そして。

「…分かりました。あなたがそうしたいのなら、そうすれば良いでしょう」

あろうことか、ナジュは退学届の記入用紙を、エヴェリナに渡した。

ちょ、何やってんだナジュ。

「ただし、よく考えて。冷静になって、よくよく考えて。イーニシュフェルト魔導学院に入学するまでのことを、入学式を迎えた日のことを、よく考えて。家族ではなく自分の為に、どうしたいのかちゃんと考えてください」

「…」

「本当に覚悟が決まったら、これを送ってください。そうでないなら、受け取りませんから。良いですね?」

エヴェリナは、ぶるぶると退学届を受け取り。

ぎゅっと目を瞑って、頷いた。

「宜しい。…では、我々は帰りましょうか羽久さん」

「は!?いや待てよ、まだ話は…」

全然終わってないし、何ならこのまま、エヴェリナは退学届に記入してしまいそうだ。

それだけは止めなくては。

しかし。

「ここまで拗れたら、何言っても通じないでしょ。僕ら、邪魔なんですよ」

ナジュは小声でそう言って、くるりと踵を返した。

そんな…。

「では、お邪魔しましたー」

俺は、半ばナジュに首根っこを掴まれるような形で。

なんとも混沌とした空気の中、オーネラント家を後にした。
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