神殺しのクロノスタシスⅣ
「愛し合ってないなんて、お前が勝手に決めんなよな」

「だって君、ちっとも新婦のことを愛してないじゃないか」

その通りだよ。

愛してはいない。愛してはいない…けどな。

「適当な言いがかりはやめてもらおうか。好きでもない女と…結婚式なんかする訳ないだろ」

今だけは、全力で愛させてもらうぞ。

俺は、これみよがしにベリクリーデの肩を抱いた。

ここでベリクリーデが逃げたら、もう取り返しがつかないところだったが。

生憎ベリクリーデは、きょとんとしながらも、逃げることはなかった。

よし、そのまま良い子でいてくれ。

後で、好きなだけ殴られてやるから。

「俺はちゃんと、ベリクリーデを愛してるよ」

「…本当に〜…?」

胡散臭い顔しやがって。

「あぁ。さっきは…その、小っ恥ずかしいもんだから…ぶっきらぼうな振りしてただけで…。本当は死ぬほど愛してるんだよ」

こうなったらやけっぱち。

背に腹は代えられない。

自分でも、何言ってんだ俺、とは思うが。

「誓いのキスが見たいんだったな?良いよ、証明してやるよ、俺がちゃんとベリクリーデを愛してるってことをな」

「え?」

オレンジ小人が、ぽかんとしているのを尻目に。

俺はベリクリーデの顎に軽く指を当てて、こちらを向かせ。

そのまま、グロスの光る唇に口付けした。

「ひょはっ!」とかいう、シルナ・エインリーの奇声や。

「あっ…」という、シュニィのちょっと恥ずかしそうな声や。

「…?」と、キスされているのにぽやんとしている、ベリクリーデの視線が痛かったが。

何度も言うが、背に腹は代えられない。

誓いのキスを見せて満足するなら、俺が後でベリクリーデに殴られるくらいは、安いものだ。

「う、うわぁ…!結婚式だ…誓いのキスだ!『喜び』が…『喜び』が溢れてるよ!」

オレンジ小人の、この現金なこと。

誓いのキスを見せられるなり、ぐんぐんと小瓶の中身が溜まり。

あっという間に、溢れ出る寸前。

「これぞ『喜び』…!白雪姫に捧げるに相応しい感情だ!」

と、小人が叫ぶなり。

俺達を戒めていた、茨の指輪が…霧のように、消えてなくなった。
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