神殺しのクロノスタシスⅣ
「…」

僕は無言で、黙って手紙を読んだ。

たった一枚の便箋にしたためられた、家族からの手紙。

本当に僕の家族が、僕に書いたものではない。

それは分かっているけれど。

でも、やっぱり…心に響くものだった。

無視出来るはずがない。

いつだって、心の隅っこで気にしていることだから。

「…エリュティア…」

「エリュティア君…大丈夫?」

羽久さんも学院長先生も、心配した様子で僕の顔色を窺う。

…心配をかけて、とても申し訳ないが。

でも、大丈夫だ。

「…エリュティア、良いか?そんなもの本気にするな。そこの性悪小人が、お前を悲しませる為に捏造した、適当な文章なんだから」

再度、羽久さんが僕にそう促した。

自分も小人のせいで大怪我してるのに、よく僕のことなんか心配してくれるよ。

申し訳ない。

でも。

「僕は大丈夫ですよ」

ざっと手紙を一読して、僕はそう言った。

書いてあったのは、予想通りの言葉だった。

僕を責め立てる言葉。

家族が今更、僕の存在を顧みることはないと思っていた。

でももし、万が一気が変わって、僕に連絡を寄越すとしたら。

きっとこんな文章を送ってくるんだろうなぁ、と僕が想像していた通りの文言だった。

この小人は、僕の頭の中を覗き込んで、僕が一番悲しむであろう手紙の内容を考えているのだから、それも当然なのだが。

だから、予想していた通り。

弟を見捨て、両親を捨て、家族を見捨てて家を出た、僕に対する恨み節。

…分かってはいたけど…やっぱり、傷つくものは傷つくなぁ。

さすが、悲しみの小人だけのことはある。

充分悲しませてくれたよ。ご馳走様。

「ふふっ…。大丈夫だとか言いながら、ちゃんと悲しんでるじゃないか。見てご覧よ、これ。悲しみでいっぱいだ」

悲しみの小人が、青い液体がいっぱいに満ちた小瓶を揺らしていた。

だろうね。そうなるだろうね。

…予定通りだ。

「…望み通り、悲しんであげたよ」

僕はそう言って、手紙を真っ二つに引き裂いた。
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