神殺しのクロノスタシスⅣ
…。

…帰ったぞ、あいつ。

「…ふっ。僕の勝ちですね」

敵が逃亡したので、ナジュの勝ち。

小人が逃げ出すと同時に、ナジュの茨の指輪も、何処かに消えていた。

おめでとう。

いや、めでたいのか…?

「…ナジュさん…!なんて危険なことを…!」

天音が、堰を切ったようにナジュに言った。

「危険?何が?」

「だ、だって…!あの茨の毒が、ナジュさんを殺せない毒だったから良かったようなものの…。もし本当に死んでたら…!」

「それはそれで、僕は嬉しい誤算ですけど」

「そんなことで君が死んだら、僕は一生悲しむよ!」

「…それは…済みません」

「済みませんじゃ済まないよ…」

力なく、へなへなと崩れ落ちる天音。

緊張が解けたらしい。

「無事で良かった…」

天音に悪気がないのは、百も承知。

ナジュが死にたがりであることも、百も承知。

その上で天音は、ナジュが生きていて良かった、と言った。

ついでに、付け加えておくなら。

俺も同感だ。

「危険な綱渡りすんなよ、馬鹿が」

「いてっ」

とりあえず、ベシッ、とナジュの頭をはたいておいた。

「だって…。あのまま我慢してご機嫌取りしたって、あのペースじゃ、とても明日の刻限までに小瓶をいっぱいにすることは出来ませんでしたよ?」

だから、敢えて小人を挑発することで、死の刻限を早め。

どうやってもナジュは殺せないと、早々に諦めてもらってお引取り願おう、と。

いつから、そんなコスい作戦を考えていたんだか。

「二日目からですね」

諦めるの早いな、お前は。

「あとはまぁ、『白雪姫と七人の小人』の毒がどんなものか、試してみたかったっていうのもありますけどね」

「…本当に死んだら、どうするつもりだったんだよ…」

「死なないことは分かってましたよ。学院長でさえ僕を殺せないのに、あんなチンケな魔法道具ごときで、僕を殺せるはずがない」

チンケな魔法道具…ねぇ。

本当に、そんなものに殺されなくて良かった。

「まぁ、結果オーライということで。残る小人は、あと一人ですよ」

ナジュのあれ、さっきのピンク小人の契約って、満了したことになるのか?

勝手に契約を投げ捨てて帰ったんだから、クリアだと思いたいが。

残る一人…か。

今度こそ、俺か、シルナの出番だな。
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