神殺しのクロノスタシスⅣ
――――――…分かっていたことではあるが。

やっぱり、『白雪姫と七人の小人』の毒くらいでは、僕を殺すことは出来ないか。

ちょっと痛くはあったけど、それだけだ。

あれなら『アメノミコト』の毒の方が、余程辛い。
 
予想以上に余裕だったな。

と、僕は思っていたのだが。

「あんな危ないことするなんて…」

ケーキまみれの顔を拭きながら、天音さんはまだブツブツ言っていた。

試しに心の中を読んでみると、思わず笑いそうになった。

この人、顔面ケーキまでされたのに。

ピンクに対する怒りなんて、欠片も持ってないどころか。

「ナジュ君が毒で死ななくて良かった」とか思ってる。

僕の心は海より広いけど、天音さんの心の広さは宇宙規模だな。

…ところで。

「いつの間に、心の中で僕のこと君呼びしてるんですか?」

「えっ!?」

天音さんは、ビクッとしてこちらを見た。

「ば…バレてた?」

バレてた?ってあなた…。

「心の中読めますからね、僕は」

「そ、そうだった…。…ごめん…」

「別に謝らなくて良いですよ」

むしろ、いつの間にか天音さんに…何て言うか…。

…。

「…友達認定されてます?」

そんな訳ないだろ調子にのるな、と言われたら、速攻謝罪しますが。

天音さんはと言うと。

「えっ?僕達友達じゃなかったの…?」

あ、済みません。

友達じゃないと思ってたの、僕だけでした。

友達じゃないと思っていたと言うか、友達だと思うなんておこがましい、と言うか…。

でも…そうか。

天音さんが、そう思ってくれるなら。

「…じゃあ、今日から心の中だけに限らず、好きに呼んで良いですよ」

呼び捨てでも、君付けでも、何でもどうぞ。

いえ、原状維持で、と言うならそれでも良し。

「そう?じゃあ遠慮なく…ナジュ君で」

「そうですか」

「実は、頭の中では君付けしてるのに、実際呼ぶときはさん付けしてたから、使い分けるのが面倒だったんだ」

それなら、もっと早く言ってくれたら良かったのに。

謙虚ですねぇ。

とにかく、まぁ、そういうことで。

「ケーキ、駄目になっちゃったね…」

「良いですよ。また作りますから」

友達に食べさせてあげた最初のケーキが、顔面ケーキなんて、あまりに悲しいからな。

また作りますよ。

「本当?ありがとう。待ってるね」

「えぇ、待っててください」

そういうことで、これで。
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