神殺しのクロノスタシスⅣ
不味い。

いつの間にか、二十音が出てきてしまった。

無理もない。本体である羽久の身体が、これほどまでに傷つけられ。

更に…不覚にも、私まで負傷してしまったのだ。

この「緊急事態」を見て、二十音が出てこないはずがない。

二十音自身の、そして何より…私を傷つける敵が、目の前にいる。

それだけで、二十音にとっては許せない事態だ。

いかなる手段を以てしても、二十音は私の敵を排除する。

おまけに、今私達が対峙している白雪姫は人間ではないのだ。

命を持たない、人形…魔法道具。

一片も残さずに、徹底的に、破壊の限りを尽くすだろう。

…それこそ、そこにいる珠蓮君を始め、イーニシュフェルト魔導学院仲間達を、平気で巻き込んで。

珠蓮君が賢者の石で、魔法を相殺してくれているとはいえ。

賢者の石は、完全な魔封じの道具ではない。

ましてや、私でさえ防ぐことは困難な二十音の魔法を、完全に相殺することは出来ないだろう。

従って、二十音に白雪姫を攻撃させたら駄目だ。

白雪姫を壊すどころではない被害が出る。

それにあの白雪姫は…『白雪姫と七人の小人』は…止める方法があるのだ。

闇雲に、力ずくで壊すのではなくて…。

何としても、周囲に被害を出さない「正しい方法」で、再び白雪姫を封印しなければ。

「っ…!」

しかし、既に二十音は、白雪姫に肉薄していた。

その片手には、懐中時計が握られていた。

止めないと。二十音を、私が止めなければ!

「二十音!壊しちゃ駄目!!」

私が強くそう叫ぶが、二十音はまるで耳を貸さない。

お願いだから、私の言うことを聞いてくれ。

「止(と)めて、二十音!!白雪姫の、時間を止めるんだ!壊すんじゃなくて!」

私は、必死に二十音にそう哀願した。

「止めるんだ!お願い!!二十音、良い子だから!!」

「良い子」と言うと。

二十音は、その言葉にピクリと反応した。
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