神殺しのクロノスタシスⅣ
『サンクチュアリ』…だと?

「考えたの誰だよ、って思うくらい中二病ネームですね」

ナジュ。それは俺もちょっと思ったけど。

だからって、今大事なのは、組織の名前じゃないだろ。

『サンクチュアリ』という、組織そのものだ。

「そいつらが、魔導師排斥論者の集まりってことか?」

「うん…。若者が中心になって、王都に拠点を置いて活動してるとか…」

王都?王都にまで来てるのか?

「え?でも…。この間の事件は、南方都市のシャネオンでしたよね?」

天音が、シルナに尋ねた。

確かに。

王都中心のグループが、何故シャネオンで事件起こしてるんだ?

しかし。

「それが、この間のシャネオン駅爆破事件の犯人に、事情聴取したら…その爆破事件の犯人は、『サンクチュアリ』のメンバーじゃなくて…」

「王都での『サンクチュアリ』の活動に触発されて、単独で起こした事件だったんですよね?」

シルナの心を読んだナジュが、補足して説明した。

成程。

じゃあ、爆破事件の犯人は捕まえたものの。

肝心要の、『サンクチュアリ』のメンバーは捕まってないのか…。

「捕まるも何も、羽久さん。魔導師排斥論者は、別に犯罪者じゃないんだから、捕まりませんよ」

今度は俺の心を読んだナジュが、俺に言った。

あ、そうか…。

魔導師排斥論者であることは、罪には問われない。

誰しも、どんな考えを持っていても、それは個人の自由だからな。

それを咎める権利は、誰にもない。

例えば俺が、「シルナの泣きべそ超キモい。マジおっさんキモい。目が腐る」と思っていたとしても、それは俺の自由であって。

「!羽久が、また私に失礼なことを考えてる気がする…!」

うるせぇ。

とにかく、誰をどう思おうが、何を思おうが、思うだけなら自由。

何なら、余程過激な言い方でなければ、口にするのも自由だ。

言論の自由は、誰でも認められてるからな。

あまり言い過ぎると、名誉毀損に引っ掛かるけども。

しかし…。

今回のように、その考えを拗らせて、小学校や駅を爆破するのは、明らかに行き過ぎだ。

思うのは自由。喋るのもまぁ自由。

でも行動を起こすなら、そこは慎重にならなければならない。

言論は自由だが、法に触れれば当然捕まるからな。

それはそれ、これはこれだ。

だが…。

「シャネオンまで噂が届くってことは、その『サンクチュアリ』ってグループも、それなりに盛んに活動してるんだろう?」

「えぇ。こっそり反魔導師主義のパンフレットや新聞を作っては、配布してるみたいですね」

「そんなことを…」

なら、その新聞を読んで触発された犯人が、シャネオンで爆破事件を起こしたってことか…。

…すると。

「…」

何故か、シルナがふいっと後ろを向き、そして。

焦ったように、汗をかいてそわそわしていた。

…あいつ、何やってんの?

「ちなみに、その『サンクチュアリ』が発行した新聞を、聖魔騎士団が苦労して一部入手し、学院長にも送ってくれたんですが…。昨日はずっとぴえんしてたものだから、その新聞でうっかり鼻水拭いちゃって、やべぇと思ったのか、証拠隠滅の為に、ゴミ箱に捨てたんですよね」

「うわぁぁぁ!ナジュ君、それを言わないでぇぇぇ!」

…なぁ。

今、こいつ何て言った?
< 70 / 795 >

この作品をシェア

pagetop