神殺しのクロノスタシスⅣ
「知らないんですか?今、生徒の間で流行ってるんです。こうやって生徒手帳をデコるの」

「勿論生徒手帳だけじゃなくて、ペンケースとか学生鞄とか、持ち物を色々デコるんですよ」

「まぁ、一番流行ってるのは生徒手帳なんですけど。男女問わず、皆思い思いにデコってるんです」

三人娘が、順番にそう説明してくれた。

へぇ…。生徒の間に…そんなブームが。

「でも、先生方は生徒手帳はお持ちじゃないでしょう?」

まぁ、そうだな。

生徒じゃないからな。

教師手帳なんてものもないし。

「だから、代わりに名札が狙われたんでしょうね〜」

と、にこにこしながら言われてた。天音。

代わりに、ってお前…。

「あなた達…。生徒手帳を何だと思ってるんです。好きなように飾れるクリスマスツリーじゃないんですよ」

元の見る影もない、きらきらデコられた生徒手帳を見て。

鬼教官イレースが、眉を顰めたものの。

やってしまったものは、もう戻らない。

それに。

「へぇ〜可愛いね〜!上手にデコってるなぁ〜」

学院長であるシルナが、デコられた生徒手帳に興味津々。

お前が一番、「貴様ら、生徒手帳を何と心得る!」と叱らなきゃいけない立場なんだぞ。

それなのに、叱るどころか褒めてるんだもんな。

イレースがいくら怒ったところで、トップにいるシルナがこれじゃあ、まるで効き目はないだろう。

天音もデコられてる上に、ナジュなんか自主的に、率先してデコってるもんなぁ。

「それ見せてもらっても良い?」

「どうぞー」

「ほわー、レースまでついて…皆センスあるんだねー、かわい…ん?」 

ん?

シルナが、何かに気づいて手を止めた。

…どうしたんだよ。

「なんか今、ふわっと…良い香りがした。これ、何か塗ってる?」

…言われてみれば。

さっきから、フローラルな香水みたいな良い香りが漂ってくる。

部屋の中に、チョコの匂いが充満しているから気づきにくいけど。

「おっ、さすが学院長先生。良いところに気づきますね〜!」

「え、そう?」

調子に乗るな。

「生徒手帳に香水を振ったり、香り袋を挟んだりして、良い匂いをつけるのも流行ってるんですよ」

「私のには、香水をつけてるんです」

「あ、成程。それでこんな甘い匂いが…。へぇ〜」

考えたもんだなぁ。

見た目だけじゃなく、香りにまでこだわるとは。

「良いなぁ〜。私も、名札にチョコケーキのチャームつけて、チョコレートの匂いをつけたい」

絶対言うと思ったよ。

シルナ以外、誰も得しないデコレーションだな。
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