神殺しのクロノスタシスⅣ
「却下です」

案の定、イレースは冷ややかに却下。

だよなぁ。

「何でっ?何で駄目なの!?」

駄目に決まってるだろうが。

「魔導師に食事は必須じゃないんです。魔導学院の生徒が、食について考える必要はありません」

ばっさり。

「何でぇ!必要だよ、必要!食べることは大事だよ!」

そりゃまぁ、シルナにとってはそうだろうけど。

特に甘いものな?

食事の必要性のない魔導師でも、全く食物について考える必要がない、とまでは言わないが…。

しかし優先度は、やはりどうしても低くなる。

わざわざ、全校一斉小論文の課題にするほどではない。

魔導学院だもんな…。やっぱり魔法について考えた方が良いんだろうか…?それは安直かな…。

「ふむ、やはりここは僕の意見を採用ですね」

あ?

「これからの魔導師は、これまでの発想に囚われない自由な思考を持つべきです。よって、学生のうちから自由恋愛を、」

「やはりあなただけは、煩悩を捨て去る為に反省文を提出させた方が良いようですね」

「いやちょっと、そんな。軽いジョークじゃないですかジョーク。マジギレしないでくださいよ」 

こいつはアホなのか。

もう放っとこう。

イレース藪をつついて、猛毒のイレース蛇を出してどうするんだ。

「…あの…」

天音が、おずおずと挙手した。

しかし。

「…何です?」

「ひっ…」

イレースの眼光にやられ、萎縮しまくる天音である。

…イレース。天音は悪くない。天音は悪くないから、睨むのはやめよう。

多分この中で、一番まともなのが天音なんだからさ。

「どうした天音。何か意見があるなら言ってくれ」

イレースの代わりに、俺が天音に発言を促す。

そうでもしなきゃ、いつまでたっても決まらない。

最悪、さっきのイレース案が採用されてしまう。

それだけは避けたかった。

「そんなにむ、難しく考えなくても…作文だと思って、簡単なテーマで良いんじゃないかな」

「具体的には?」

「そうだな…。何だかんだ皆さっきから、これから先の、未来のことについて書こうとしてるでしょ?」

…言われてみれば。

これからの展望とか…これからもっとこうなって欲しい、とか。こうなるべき、とか。

未来について喋ってるな。俺達。

「だったらシンプルに、『自分のこれからの夢、目標』みたいな…。漠然としたテーマで良いんじゃないかな。これなら、年齢も学年も関係なく、皆好きなように書けるでしょ?」

と、天音が提案した。

この場に天音がいて、本当に良かったと思った瞬間だった。
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