神殺しのクロノスタシスⅣ
シルナは、恍惚として夢を語る。

夢を語るシルナ。

「まずは、『ヘンゼルとグレーテル』から、ありったけ、全種類のお菓子を買い込んで…」

仕入れ業者か。

ちなみに、その費用を誰が負担するのかは、考えないことにしておく。

ほら、リアルな数字とか出したら、途端に冷めるだろ?

夢は夢でいた方が良いってこともあるんだ、世の中にはな。

「そしてそれをぜーんぶ並べて、あ、テーブルの中央には、おっきいチョコファウンテンを置くんだ!全校生徒が一度に楽しめるチョコフォンデュをやるの!」

最早噴水。

ならぬ、噴チョコ。

「でね、でね、それをしながら、皆の好きなお菓子を…」

「…さて、発表も終わったことですし、私はいつもの業務に戻ります」

「ちょ、イレースちゃん最後まで聞いてぇぇぇ!」

イレース、無慈悲。

これ以上シルナの夢の話など、聞く価値もないとばかりに、さっさと学院長室から退室。

血も涙もねぇ…。

更に。

「僕も、イケメンカリスマ教師の夢の為、稽古場で生徒に媚び売ってきまーす」

「ちょ、まだ!私の発表まだ終わってな…ナジュくぅぅぅん!!」

脱走者、その2。

で、残ったのは俺と、そして天音のみ。

儚いもんだな。

「…誰か私の夢を応援してください」

シルナは真顔だった。

「え、え、えぇと…はい。その…か、叶うと良いですね…」

天音は優しいので、頑張ってフォローを入れてくれていた。

良い奴だよ本当、お前って奴は。

「だよね!来年には叶うかな!?」

「ら、来年…!?は、む、無理なんじゃ…い、いや…な、何とかなりますかね…?」

無理しなくて良いんだぞ、天音。素直に言ってやってくれ。それは無理だと。

「よーし!来年は、皆でお菓子パーティーだ!きっと夢を叶えてみせる!頑張ろう!」

「は、はい…。あの…頑張ってください…」

良いことだな、夢があって。

五人分の夢を語って、今のところ実現可能なのは、天音の夢だけ。

実に儚い。

人の夢だからこそ、儚いんだろうが。

「…叶うと良いなぁ」

シルナの夢、天音の夢、ナジュの夢…。イレースの夢は、ちょっと置いておいて。

どの夢も、全ては俺の夢が…願望が叶わないことには始まらない。

ルーデュニア聖王国が、イーニシュフェルト魔導学院が、平和であること。

これが一番大切で、一番重要で…。




…そして、俺達にとって、一番実現不可能な夢だ。
< 737 / 795 >

この作品をシェア

pagetop