神殺しのクロノスタシスⅣ
「ナジュ。昨日二人に会ったとき、何か異変はなかったのか?」

こんなときこそ、ナジュの無駄に有能な読心魔法が役に立つ。

いくら平気な振りを装おうが、心を読まれていたんじゃ、二人も隠し切れまい。

「えー…。無駄に有能、とか言う人には教えられな、」

「お前もファラリスされたいのか?」

「…どう思います?天音さん。パワハラですよね、これ。上司によるパワハラですよ」

「え?そ、そうかな…」

下らんこと言ってないで、質問に答えろ。

いきなり話を振られて、天音が困ってるだろうが。

「昨日は、令月さんには会ってません。が、すぐりさんには会いましたよ」

そう、素直にそう言えば良い。

令月には会ってないのか。でもすぐりに会ってるなら…。

二人共、情報は共有してるだろうし…。

「会ったのは放課後の、園芸部の活動をしてるときでしたけど。すぐりさんはいつも通りでしたよ」

「そうか…」

「いつも通り、『花畑って、何処に作れば良いんだろう…』とか考えてました」

あいつ、いつも何考えてんの?

花畑って何だよ?

ともあれ、『アメノミコト』からの刺客と接触した…という訳ではなさそうだ。

「じゃあ、『アメノミコト』絡みではないのか…?」

「そもそも、本当に『アメノミコト』からの刺客なら、わざわざそんなものを残していきますか?」

と、イレースがメモと人形を指差した。

…確かに。

以前抜け出したときは、何も残さずに行ってたもんな。

だから、抜け出したことさえ気づくのが遅れた。

俺達を巻き込まず、自分達だけで事を収めることを考えているのなら。

わざわざこうして、抜け出した証拠を残していくような真似をするか?

あの、小賢しい元暗殺者組が?

…考えにくいな。

まさか、『アメノミコト』にそのような指示を受けた、とか?脱走した痕跡を残せ、って?

有り得ない。あの狡猾な暗殺者集団が、わざわざ尻尾を掴ませるような証拠を残すなんて…。

イレースとナジュが、これほど楽観的なのは、それが理由か…。

いや、でもあいつらって、本当何考えてるか分からないし。

たまに、とんでもなく突飛なことをするから、行動が読めな、

「…ん?」

学院長室の窓から、ガチッ、と鉄がぶつかるような音がして、俺は振り返った。

すると。

窓のさんに、鋭い鉤爪のようなものが引っ掛かっていた。

何だあれ、と思ったとき。

窓の向こうに、ひょいっ、と登ってくる…、

…黒装束に身を包んだ、令月の姿があった。

…何やってんの?あいつ。
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