陰謀のための結婚

「そういえば、智史さんってお酒飲まれないんですか? 飲む機会はあったと思うけど、車の運転を気にされて?」

 飲み掛けのエスプレッソを手に取る彼は、「いや」と短く言って、カップに口をつける。

「私は弱いので、滅多に飲まないんですけど」

「じゃ飲むのは、俺と一緒にいるときだけと約束して」

 カップをソーサーに置き、彼は私を真っ直ぐに見つめる。

「でも、智史さんが飲まないんだったら」

「嗜む程度には飲むけど、香澄ちゃんといるときに飲まなかった理由は、うーん、朝のカフェでは話せないな」

 嫌な予感がして「いいんです。無理に聞きたかったわけではないので」と濁す。
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