陰謀のための結婚
カフェを出ると、アスファルトから伝わる熱と太陽から降り注ぐ日差しが、ジリジリと肌を焼く。
「今日は一段と暑いな。涼を感じる場所に行こうか。水族館とか」
「いいですね。水族館行きたいです」
日差しに顔をしかめつつも、手は自然と私とつなぐ。当たり前になりつつある、恋人らしい距離感に気持ちは弾む。
「勝手な思い込みですけど、西麻布でもカフェはカフェなんですね」
「え? どういう意味?」
もちろん注文したスコーンはおいしくて、ブレンドも深い味わいだった。値段はそれなりにしたけれど、店の立地に雰囲気料が入っていると思えば、それ相応の価格だ。
なんなら大森にも、おしゃれで味にもこだわっているカフェはある。西麻布という土地柄に、気後れしていただけ。
飛び込んでみれば、案外馴染めるかもしれないのに。
「恐れていては、なにも始まらないですよね」
「なに? なんだか哲学的だね」
彼は楽しそうに言って笑った。