陰謀のための結婚

 ギュッと彼は私を抱き締める。私は胸に痛みを感じて、情けない声が出た。

「やっぱり妊娠できるかどうかは、重要じゃないですか」

 香澄ちゃんさえ側にいてくれれば、というのは、やっぱり本心じゃないのだと知る。もちろん思い遣りからの発言だとわかっているのに、悲しさが広がる。

「勘違いしないで。誰の子でもいいわけじゃない。香澄ちゃんとの子どもが望めるかもしれないから、うれしいんだろ」

 私と、智史さんの、子ども。ふたりの赤ちゃん。

「手術が嫌なら、無理にとは言わない。大前提として、香澄ちゃんが大切だから。それを忘れないで」

 まだ想像できない未来に、彼の優しい言葉が重なる。

「俺がこれから過ごす日々に、香澄ちゃんがいるって信じてる」
< 146 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop