陰謀のための結婚
「智史さんのお父様は、私が」
私生児だとご存じなのですか?
続けるつもりだった言葉が、声にならずに喉に引っかかる。
まだ話していなかった秘密。ただ離れて暮らしていただけじゃない。認知もされていない必要のない子ども。
こんな風に考えるのは好きじゃない。けれど、父に必要とされなかった思いは心の奥底にずっとあった。
言い淀んだ言葉を特に追及せずに、智史さんは言う。
「香澄ちゃんは、三矢社長と話す必要がありそうだね」
「話すことなんて、なにもありません」
三矢との関係を隠すのも忘れ、冷淡な声が出てハッとする。
「いいよ。急がなくていい。俺との関係もよく考えて。別れるという選択肢はナシで頼みたいけど」
「あと」と彼は付け加えて言う。
「少しは俺を頼ってほしい。俺、香澄ちゃんが『芹澤香澄』だって病院で初めて知った」
彼の指摘に息を飲む。そうだ。名前さえきちんと話していない。
全部打ち明けたつもりになって、私はまだ彼に隠し事をしている。
「俺からの要望としては、まずは一緒に暮らしたい。考えてみて」