陰謀のための結婚
幸せな未来に向かって
生理は突然来たためなのか、三日程度で終わってしまった。病院には仕事終わりに再診し、自分の体と向き合い始めたばかり。
智史さんとは、表面上は穏やかな付き合いを続けている。
ここ数日忙しそうな彼と会えずにいて、久しぶりに食事をしようとディナーに誘われた。
それだけで浮かれているのだから、彼を好きで仕方がないのは自分でもわかっているのだけれど。
ただ、胸の奥で燻っているさまざまな思いが、彼との関係の進展を踏み切れずにいた。
待ち合わせ場所に行くと彼は既に待っていて、私に気づき軽く手を上げた。その柔らかな表情に胸が高鳴る。
指定された場所は、城崎リゾート東京ベイのイタリア料理店ベルカント。初めて三矢に呼び出された店だ。
嫌な思いが蘇りそうになるけれど、智史さんと訪れて楽しい記憶に上書きできたらいいなと前向きに捉えていた。
「久しぶりだね」
手が伸びて指先が頬に触れる。思わず肩を竦めた。
「くすぐったいです」
「香澄ちゃんに会うと、無意識に触れたくなって困るよ」
優しい微笑みを浮かべる彼はすっかり妖艶さを仕舞い込み、幼な子と接するような態度でいる。あの日以来、体は重ねていない。