陰謀のための結婚
「美咲は子どもの頃からの知り合いで、兄妹のようなものだ。美咲が思いを寄せているのは直輝なのに、当の本人は気づいていない」
優しい本当の兄のような声色に、顔を上げて彼を見つめる。
「私が身を引けば、みんなが幸せになれるって」
言うつもりのなかった弱音がぽろりとこぼれた。
「直輝に言われた? あいつ素直じゃないから。それに俺が想っているのは、香澄ちゃんだけだと知っているだろう?」
そっと唇が重なり、胸に温かい気持ちが広がっていく。
「俺の心配と、香澄さんへの心配と、それにあいつは自分の美咲への気持ちに気づいていない」
世話のかかる弟や妹を気にかける兄のような顔つきから、甘い恋人の表情に変え、再び唇が重なった。
「ほかのやつらの話はもういいだろう? せっかくふたりっきりになったんだ。恋人の時間を過ごそう」
甘い時間を予感させる囁きに、私は小さく頷いた。